1時間に凝縮された“愛の死”の世界
《トリスタンとイゾルデ》は演奏時間4時間超えのオペラだが、勅使川原三郎による佐東利穂子とのダンス版はこの世界を1時間に凝縮してみせる。勅使川原は、トリスタンとイゾルデの互いへの強い「憧れ」と、その完全な達成の(不)可能性にフォーカスする。ほかの人々や社会的な軛が消えた世界でふたりきり、どれだけ互いに焦がれ合っても、ふたつの身体はひとつにはなれず、その「憧れ」の大きさだけが「喪失」によって浮き彫りになる――佐東が表現する、トリスタンの死に直面したイゾルデの声なき慟哭は圧巻だ。そしてその先にある「愛の死」は……。
70人も入れば満員になる荻窪の小さなスタジオは、この作品を上演するとき、宇宙のような壮大な空間になる。今回はすでに世界各地でも絶賛されている作品の国内3度目の上演であり、この空間で、この人数でその理想形を味わえる貴重な機会。オペラの《トリスタン》を愛する皆様、ぜひこの1時間の体験を。
文:森岡実穂
(ぶらあぼ2020年4月号より)
2020.3/20(金・祝)〜3/23(月)、3/25(水)〜3/28(土) カラス・アパラタス
問:KARAS 03-6276-9136
http://www.st-karas.com