イタリアで培ったセンスを聴かせる
イタリアを拠点とし、ソロ、室内楽に加えバレエとの共演など、多彩な演奏活動を行う吉川隆弘。東京芸術大学大学院修了後ミラノに留学し、コルトーやミケランジェリの高弟だったアニタ・ポリーニのもとで研鑽を積んだピアニストだ。
今回リサイタルで取り上げるのは、ハイドンのソナタト短調、シューマンの幻想曲、ヤナーチェクの「霧の中で」、ラヴェルの「優雅で感傷的なワルツ」「ラ・ヴァルス」と多岐にわたる。一夜にしてさまざまな時代の作品を弾く、ピアニストに多くのことが求められるプログラムだ。
吉川のピアノの魅力は、明瞭なタッチ、丁寧に噛みしめるように紡がれる美音にある。確固たる基礎の上に、イタリア生活で培われた豊かな感性が加わったためだろう。その表現には真面目さの中に遊び心が見え隠れする。優れたセンスで、2世紀にわたる年月の中で生まれた作品たちの多様なスタイルを、注意深く描き分ける。誠実な演奏で、私たちの期待に充分応えてくれそうだ。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ2013年11月号から)
★11月27日(水)・サントリーホールブルーローズ(小)
問 Ampio東京支部03-6421-8131
12月4日(水)・兵庫県立芸術文化センター(小)
問 Ampio 0798-73-3295