“世界の蝶々さん”の声と表現に酔いしれる
数多いる日本人歌手のなかでヨーロッパで認められた人は、残念ながら少ない。例外の一人が大村博美である。評価の高いプッチーニ《蝶々夫人》はすでに世界各地で100回以上歌っており、昨年と今年はプッチーニの聖地にも呼ばれた。プッチーニが暮らしたイタリアのトッレ・デル・ラーゴにおけるプッチーニ・フェスティバルで、2年続けて蝶々さんを歌ったのだ。しかも、プレミエで。
大村の強みは、ドラマティックな表現に耐えうる強靭な声を、ピーンと張って緊張感を表現しつつ、自在に緩めながら心模様を多彩に描けるところにある。だから、この10月の東京二期会による《蝶々夫人》でも、蝶々さんの一途な愛がリアルに感じられ、悲劇に涙を誘われた。
そんな大村をだれよりも高く評価するのが、指揮者・ピアニストで、前述のプッチーニ・フェスティバルの理事長でもあるアルベルト・ヴェロネージだ。大村と共演するやいなや自身が運営する音楽祭に呼んだのは、鍛え上げられた声と表現力が本物だと評価したからにほかならない。
リサイタルのピアニストとしても卓抜なヴェロネージは、大村の性格表現をさらに深く引き出したい欲求に駆られたようだ。彼の提案で一夜限りのリサイタルが実現し、大村はプッチーニなどのアリアに加え、リストの「ペトラルカの3つのソネット」からデュパルク、アーン、R.シュトラウスまで、珠玉の歌曲を歌う。その自在な歌唱に聴き手は、同じ日本人として誇らしく感じることだろう。
文:香原斗志
(ぶらあぼ2019年12月号より)
※共演を予定していたピアニスト、アルベルト・ヴェロネージは急病のため、中野正克に変更になりました。(2019/11/30)
詳細は下記、トッパンホールのサイトをご確認ください。
http://www.toppanhall.com/about/news/index.html#2019113001
2019.12/4(水)19:00 トッパンホール
問:トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
http://www.toppanhall.com/