田中正也(ピアノ)

ロシア音楽に深く共鳴するピアニストの人気公演、東京で初開催

©Shigeto Imura

 15歳で単身モスクワに渡り、モスクワ音楽院でパーヴェル・ネルセシアン、ミハイル・ヴォスクレセンスキーという名教授に師事し、現在もロシアと日本を往復しながら活発な演奏活動を展開している田中正也。彼のひとつの代名詞となっている「魔法のピアノ」と題した、みんなが知っている曲と彼ならではのこだわりの曲を紹介するコンサートは、2010年に愛知県の宗次ホールでスタートした。

「当初は一度だけと思っていたのですが、第1回が超満員になり、その後も人気が各地に広がっていきました。10年目の今年、東京でも公演を行います」

 11月17日には、すみだトリフォニーホール(小ホール)で、CD『魔法のピアノ』(ナミ・レコード)リリース記念コンサートが開催される。この新譜はシベリウス「樅の木」から始まり、得意とするプロコフィエフのピアノ・ソナタ第6番などを経て、武満徹の「雨の樹 素描」で幕を閉じるという趣向だ。

「『魔法のピアノ』というタイトルにはピアノに魔法をかけたように音色を紡ぎ出す、見えないはずのピアノの音から風景が浮かんで見える、など色々な思いがこめられており、選曲も自分にしか弾けないレアな曲を含んでいます。今回のCDにはプロコフィエフのソナタ第6番をぜひ収録したかった。私はロシア作品が大好きですが、とりわけこのソナタは20年前から弾き込み、コンクールや演奏会で何度も取り上げています。プロコフィエフは小学生のころに魅了され、日本との接点もありますから、私にとってとても大切な作曲家です」

 プロコフィエフの魅力を語り出したら止まらない、という感じの田中。モスクワ音楽院大ホールでプロコフィエフの協奏曲第3番を演奏した直後に帰国、大きなトランクを持ったままこのインタビューに登場した。ロシア語も堪能でインタビューや記者会見も現地の人のようにこなす。日本よりもロシアにいた方が自分らしくいられるそうで、ロシアのコンクールを受けたときには、「精神的にロシア人だ」と高評価を得た。ロシアという土地にしっかり根を下ろし、「魔法のピアノ」モスクワ公演も行い、音楽を通じ日露の架け橋となっている。

 「このコンサートではトークを交え、聴衆に語りかけながら進めます。音楽が生み出す凝縮した魔法の時間を全員で共有したいんです!」と語る田中。

 とてもユニークなキャラクターだが、ひとつ面白かったのは、キリンが大好きだということ。

「キリン語がわかるんですよ。キリンと会話できるといったらいいのかな。動物園では、キリンといつまでも話しています」

 これには大笑い。こんなピアニスト、これまで会ったことがない。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年11月号より)

「魔法のピアノ」田中正也ピアノリサイタル
2019.11/17(日)14:00 すみだトリフォニーホール(小)
問:スタジオ・プレスティッシモ080-6205-8285
https://www.masayatanaka.jp/

CD『魔法のピアノ』
ナミ・レコード
WWCC-7909 ¥2500+税
2019.10/25(金)発売