アラン・ギルバート(指揮) 東京都交響楽団

深刻なサウンドと古典の明朗なトーンが絶妙にマッチする


今秋にはNDRエルプフィル首席指揮者の仕事がスタートするなど、近年のギルバートの活躍ぶりは目を見張るばかり。首席客演指揮者の任にある都響との公演でも、ここぞというところで思い切るリードにオケがハイテンションで応え、まさに“いま、聴いておかなければならない東京のコンビ”の筆頭へと駆け上がりつつある。12月には二つのプログラムを引っ提げて登場するが、定期A、Cシリーズは選曲の妙でも楽しませてくれそうだ。

まずはリストの「悲しみのゴンドラ」の管弦楽版。ワーグナーの死を予感して書かれたこのピアノ曲の不安定で重苦しい気分は、遠く20世紀の音楽を先取りしているが、現代のオーケストレーションの魔術師アダムズが、さらに濃厚な油彩画へと仕立て直している。

20世紀初頭に書かれたバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、その延長にすっと入ってくるはず。独奏は長きにわたって都響をソロ・コンマスとして引っ張ってきた矢部達哉。以心伝心の独奏とオケをギルバートがどこへ引っ張っていくか。

後半は打って変わって、音楽の優雅さやユーモアが味わえる。日本初演となる「クープランからの3つの習作」は、バロックの作曲家クープランのクラヴサン曲を現代英国の作曲家アデスが管弦楽へと移し替えたもの。基本的な進行は保ちつつも、単なる編曲を超えたアイディアが満載で、薄いオーケストレーションなのに音楽が多彩に輝くことに驚くだろう。交響曲の父ハイドンはユーモアを様々に音化したけれど、この日取り上げられる交響曲第90番でも思いがけない脱線が待っているはずだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2019年11月号より)

第892回 定期演奏会Cシリーズ
2019.12/8(日)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール

第893回 定期演奏会Aシリーズ
2019.12/9(月)19:00 東京文化会館

問:都響ガイド0570-056-057
https://www.tmso.or.jp/