ドビュッシーにラヴェル、ショパン、そしてバッハといった作曲家の作品を得意とする中井正子。彼女が今回挑んだのは、シューベルトの全ピアノ曲の中で最高傑作といっても過言ではない「即興曲集」。洗練された技巧、“ピアノを歌わせる”ことのできる、美しく変化に富んだ音色といった繊細なピアニズムが求められる作品群であり、ちょっとしたほころびが作品の“美”を壊してしまう危険を孕んでいる。しかしそこはさすがの中井。終始優雅な雰囲気を湛えた演奏を展開する。特にop.90-3や142-2といった旋律性豊かな作品でその美質を最大限に発揮。息の長い旋律が丁寧に紡がれている。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2019年11月号より)
【information】
CD『シューベルト:即興曲集 作品90&作品142/中井正子』
シューベルト:4つの即興曲 op.90、同 op.142
中井正子(ピアノ)
コジマ録音
ALCD-7241 ¥2800+税