孤高に屹立するジャケットビジュアルと、作品への敬意と清潔感にあふれる丁寧な演奏。このギャップこそヴァイオリニスト石田泰尚の魅力だろう。このモーツァルトアルバムは2日間のライヴ録音で、経験豊富な中島剛のピアノとともに芯のある澄んだ音色で巧みに弾ききり、一見素朴な造形の中に絶妙なニュアンスを散りばめる。中後期の名品はもちろん、幼少期の作品群も本質をとらえて美しい(わずか9歳のK.27には思わずため息)。アンコールは両日ともクライスラーの小品3曲。石田は肩の力を抜きながら品の良い名技を見せ、新旧ウィーンの名作曲家のつながりをも感じさせる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年10月号より)
【information】
CD『Mozart Live/石田泰尚』
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ第14番・第15番・第35番・第2番・第41番・第11番・第12番・第28番・第1番・第42番
クライスラー:道化師、クープランのスタイルによる才たけた貴婦人、ベートーヴェンの主題によるロンディーノ、ウィーン小行進曲 他
石田泰尚(ヴァイオリン)
中島剛(ピアノ)
収録:2019年2月&3月、横浜市栄区民文化センター リリス(ライヴ)
フォンテック
FOCD9816/7(2枚組) ¥3500+税