下野竜也(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

卓越したプログラミングで聴かせるドイツ三大Bの名曲


 下野竜也といえば、いわゆる名曲と演奏機会の多くない作品を絶妙に組み合わせて、それらの真価を聴かせることを得意とする名指揮者である。オッフェンバック&スッペにシェーンベルクを加えた、東京シティ・フィルの2月の定期演奏会はその好例だろう。その下野が、10月の同団の定期では、あえて「ドイツ三大B」の名作による王道プログラムを組み、注目を集めている。

 最初はJ.S.バッハで、オルガン曲「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け BWV622」のレーガー編曲版を。原曲は穏やかな小曲ながら、大曲に匹敵する宇宙的な広がりをもつ感動的な逸品。この編曲は弦楽合奏版で、原曲以上に温かいハーモニーと旋律美が味わいやすく、深い充足感を得られる5分間になるはず。下野はこれまでも本作を各地の楽団で取り上げていて、彼の名刺代わりとも言える渾身の1曲だ。

 次はブラームス。長くウィーン・フィルのコンサートマスターを務め、数々のブラームスの伝説的名演の中心にいたライナー・キュッヒルのソロで、ヴァイオリン協奏曲を。彼のボウイング、ヴィブラート、歌い回し、いずれも濃厚そのもので、現代の潮流とは一線を画す音色は無二のもの。共演経験のある下野と共に、屈指の名曲を濃密に聴かせる。

 そして最後はベートーヴェン。名曲の王者、交響曲第5番「運命」である。広島交響楽団音楽総監督を務めて円熟の域に入っている下野と、好調を維持する東京シティ・フィルによる「運命」、直球勝負の熱演が大いに期待できる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年9月号より)

第328回 定期演奏会
2019.10/18(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 
http://www.cityphil.jp/