桑田 歩(チェロ)

ショパンが愛したチェロの魅力を存分に

Photo:Toru Kometani
 「ピアノの詩人」ショパンはチェロも愛した。彼の残した4曲しかない室内楽曲のうち3曲までがチェロとピアノのための作品だ。「チェロ・ソナタ」「マイヤベーアの主題による協奏的大二重奏曲」「序奏と華麗なるポロネーズ」。それらを収めたのが、NHK交響楽団(チェロ首席代行奏者)やチェロ四重奏団「ラ・クァルティーナ」などで活躍するベテラン桑田歩の3枚目のソロ・アルバム『ポーランドの歌〜ショパン・チェロ作品集〜』。
「残りの1曲であるピアノ三重奏曲も、ヴァイオリニストの機嫌が悪くなるぐらい(笑)、ほぼチェロのための作品なので、結局全部チェロの曲なんです。僕はチェロを始めた頃から、周りの仲間たちが、ベートーヴェンの3番だ、ドヴォルザークの協奏曲だ、と言っているなか、王道志向ではなく、フォーレやショパンのチェロ作品に関心がありました」

 特にショパンのチェロ・ソナタ。初めて聴いたのは中学生の時。難病に冒されたジャクリーヌ・デュ・プレが残した最後のスタジオ録音のレコードだった。
「衝撃でした。ほとんど弓も持てない状態だったそうですが、いま聴いても悲痛な演奏です。この作品は大好きで学生の頃から弾いてきましたが、いつか形として残したいと考えていたのがやっと実現できました。特に第3楽章は、こんなに美しい音楽はないんじゃないかと思うぐらい、チェロのために残されたあらゆる作品の中で最も優れた作品のひとつです」

 チェロのためのオリジナル作品以外に、5曲の歌曲を弾いている。
「実はショパンの歌曲の存在を知らなかったのですが、歌曲はチェロで一番表現しやすいジャンルです。しかも、たとえばシューマンの歌曲をチェロで弾く場合は、ドイツ語を表現する難しさがどうしてもあるのですが、ポーランド語の語感のせいか、ショパンの歌曲には旋律楽器で弾くメリットがあるように感じました」

 歌曲は、すべて原調で弾くことにこだわった。それゆえ、「チェロに合った音域」という視点も選曲のポイントになっている。
 録音を終えて再認識したのは、「ショパンはCD向き」ということだったそう。つねづね、大会場で大音量で鳴らすショパンには違和感を感じていたという。
「ショパンはサロンで独り言のように演奏したはず。だから大会場よりは家で、間近で聴いてこそショパンの魅力がわかると思います」
 冬の夜、部屋を暖かくして、ショパンのチェロと静かに向かい合う。そんな一枚が登場した。
 また、3月には、アルバム収録曲をメインとした公演も。ピアノはCDでも共演した尾崎未空が務める。こちらも楽しみだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年3月号より)

N響チェリスト 桑田歩が贈るショパンの夕べ 〜ポーランドの歌〜
2019.3/3(日)17:00 上越/ホテル センチュリー イカヤ
問:ホテル センチュリー イカヤ025-545-3120

ニューアルバム『ポーランドの歌〜ショパン・チェロ作品集〜』発売記念
桑田歩 ミニコンサート 
2019.3/7(木)16:00 19:00 武蔵小杉サロンホール
問:マルタミュージックサービス047-335-2002

CD『ポーランドの歌〜ショパン・チェロ作品集〜』
マイスター・ミュージック
MM-4051 ¥3000+税
2019.2/25(月)発売