現代パーカッション作品はかくも多彩なり
アメリカを拠点とする打楽器奏者・片岡綾乃が、日本ではおよそ10年ぶりのリサイタルを開く。「ConText─観・そして・感─」と銘打ったシリーズの3回目。「context」は「文脈、前後関係」であり、その語源「con text」の「織り込む」という意味にも惹かれたという。そして視覚的に観て、感じて。
「パーカッションというイメージの枠にとらわれずに楽しんでいただきたい」という言葉のとおり、いきなり枠の外から変化球が飛んでくる。マーク・アップルバウムの『アフェイジア(失語症)』(2010)は、奏者は一音も発しないジェスチャーのための作品。細かく指定されたサインの中には日本の特撮ヒーローのポーズも登場する。
日本初演となる〈樹 風 メタル〉(2016)は、アレハンドロ・ヴィニャオの作品。コンロン・ナンカロウの自動ピアノ作品などにも影響を受けているという作曲家で、「リズムが変わってゆくなかでの移ろいが非常に精巧に書かれている」という。
マウリシオ・カーゲルは、片岡にとって重要な作曲家。カーゲルの「ミュージック・シアター」の概念が、彼女の「ConText」のコンセプトと呼応するようだ。演奏する〈ノイズ・アート〉(1994〜95)は、フラメンコのカスタネットや中東のダラブッカなど、世界の打楽器とそのスタイルを取り入れた作品。賛助出演としてジョシュア・ペリー(パーカッション)が参加。
「西洋のパーカッショニストがそれらを叩くときは、いわば専門外の初心者。そのギャップや違和感、ぎこちなさが作曲者の狙いだと思います」
奏者がティンパニの皮を破って飛び込む〈ティンパニ協奏曲〉など、冗談音楽のように扱われることも多いカーゲルだが、それは本意ではないはずだと力を込める。
「作曲家のコンセプトをきちんと知ったうえでの解釈とプレゼンテーションが大切。そこはしっかり押さえたい」
もう一曲の日本初演が、スティーブン・マッキーの室内協奏曲「ミクロ・コンチェルト」(1999)。
「ギタリストでもある彼の作品は、センスがよくて、おしゃれで、機知に富んでいます。フルートの小池郁江さん、チェロの古川展生さん等との共演となります」
そしてヤニス・クセナキスの〈ルボン〉(1987〜89)。現代打楽器音楽の名曲だ。
「大学生の頃から長年付き合ってきたので、やるたびに、そのときの自分を知ることができる。あ、今日の私はこういうふうに感じているんだ、と。とても楽しみです」
「どれも視覚的に非常にアピールできる作品ばかり」という自信のプログラム。「現代音楽はちょっと…」という方も理屈抜きに圧倒されるはずだ。それをぜひ会場で、自分の目で。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年3月号より)
片岡綾乃 パーカッション・リサイタル ConText —観・そして・感—
vol.3 “Decade”
2019.5/23(木)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール
問:イチマルマルニ03-3264-0244
https://www.1002.co.jp/