ブラームスで交わされる繊細で深い対話
国際舞台で幅広く活躍している川久保賜紀と小菅優が、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を開く。
川久保「最近ブラームスの室内楽を演奏する機会が多く、この作曲家をもっと知りたいと思い、ソナタ全曲演奏に挑戦したいと考えました。優さんとぜひ一緒にブラームスを弾きたい。彼女のピアノは情熱的で音がきらびやか。しかもダイナミックな奏法が魅力です」
小菅「ブラームスのソナタはピアノ・パートが非常に重要です。北ドイツ人特有の精神性に満ち、詩が内包されている。“歌”を思わせる面が多く、第1番『雨の歌』はリートそのものですよね。それを賜紀さんののびやかで自由な弦の響きとともに表現したいと思います」
川久保は16歳でまず第3番を学び、20代で第2番、30代で第1番を勉強した。
川久保「第1番、第2番は繊細でバランスをとることが大切。ハーモニーの違いで音色を変えていかなくてはなりません。第3番がもっとも難しい。実は第1楽章で中間部の主題に戻るところの3小節がどうすればまとまるのか、常に試行錯誤を繰り返しています」
小菅「ピアノも第3番がもっとも技術的に難しいと思います。ブラームスはハンガリー民謡を用いたり、ほの暗い世界を描き出したり、シンフォニックな面もある。それをピアノで表現することが大切になります。私はドイツの詩を数多く読むようにしています」
ふたりは各地でツアーを行い、共演を重ねてきた。2021年にもドイツでツアーを行う。
川久保「ふだんのリハーサルや会話は英語です。その方がお互いに気持ちが通じやすい」
小菅「ときどきドイツ語も。日本語はあいまいな表現が多いので、英語の方が端的」
リハーサルは会話をするよりも音楽で合わせていく方が多く、本番でも表現は変容する。
小菅「ブラームスは古典的な規則にのっとって作曲し、縦の線も重視しているため、それを考慮しながらヴァイオリンとの流れを考えます。ロマンティックでメランコリックな面もあり、曲の最後はクライマックスを築くのではなくノーブルに終わります」
川久保「リハーサルではピアノがどう表現するのか、いつも新たな発見があります」
川久保は最近数多く演奏しているドビュッシーの室内楽をより深めたいと語り、小菅はロシア作品に目が向き、特にスクリャービンに魅了されている。ブラームスでは丁々発止の音の対話が交わされるに違いない。
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2019年2月号より)
川久保賜紀 & 小菅 優 ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会
2019.3/11(月)19:00 紀尾井ホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
https://www.japanarts.co.jp/