異種のフィールドが交錯する未体験の空間
日本の伝統芸能である能とハンガリーの現代音楽との出会いが、斬新な領野を切り開く注目のコンサートである。東京文化会館の舞台芸術創造事業として3月に開催される「くちづけ〜現代音楽と能〜」は、ハンガリーを代表する世界的巨匠エトヴェシュ・ペーテルの2作品を中心としたプログラムで、両国の国交樹立150周年を祝す記念すべき企画である。
日本初演となる「くちづけ」は幕末の日本を舞台にした官能的な愛の物語『絹』(アレッサンドロ・バリッコ著)からインスピレーションを受けた意欲作。もうひとつは1973年に書かれ、やはり日本文化に触発された「Harakiri」。両作に出演するのはエトヴェシュ作品に精通している青木涼子。異色の能アーティストとしてこれまで数多くの現代作品を成功へと導いてきた青木と演出の平田オリザが、エトヴェシュの世界に新鮮な光を当ててくれるだろう。
この2作に加えて、企画アドバイザーをつとめる細川俊夫の作品と、彼とエトヴェシュの推薦による両国の若手作曲家の新作も披露される。中堀海都の「二つの異なる絵」とバログ・マーテーの「名所江戸百景」で、どちらも委嘱世界初演となる。とりわけ現在ニューヨークで活動する中堀の作品を日本で聴ける機会は少ないので楽しみだ。演奏は、フルートの斎藤和志、打楽器の神田佳子、そしてチェロの多井智紀ら、現代作品を得意とする奏者たちによるアンサンブル。
現代音楽と能、そして日本とハンガリーの架け橋となるスリリングなひとときになるだろう。
文:伊藤制子
(ぶらあぼ2019年2月号より)
東京文化会館 舞台芸術創造事業 日本・ハンガリー国交樹立150周年記念
くちづけ〜現代音楽と能〜
2019.3/9(土)16:00 東京文化会館(小)
問:東京文化会館チケットサービス03-5685-0650
http://www.t-bunka.jp/