常にオーケストレーションを意識して音を作っています
2016年エリーザベト王妃国際音楽コンクール・ファイナリスト岡田奏がデビューCDをリリースする。15歳で渡仏。パリ国立高等音楽院で10年間みっちり学んだ大型新人の登場だ。新譜はその経歴を反映したフレンチ・アルバム。
「ほとんどすべてが譜読みからパリで勉強した曲。フランスでの生活のハイライトのようにどの曲にも思い出やエピソードが詰まっていて、自分のいろいろな面を聴いていただけると思います」
冷静で理知的な解釈と、それを情感豊かに表現する能力が魅力。「ラ・ヴァルス」に圧倒された。幅広い強弱の表現と自在な緩急。それが恣意的な独りよがりになっていないのが素晴らしい。
「一番気をつけていることです。フランス音楽は拍感が自由ですが、押し付けがましくてはだめ。自然でなければならない。そこが難しくもあり魅力でもあります」
その「ラ・ヴァルス」ではまた、多くの奏者と同様、原曲の管弦楽版から、ラヴェルがピアノ版では用いなかった声部やパッセージを加えて補っている。
「もちろんピアノならではの表現も聴かせながら、単に声部を補うのではなく、弾く時に、ここはオーボエ、ここはフルートというように、ラヴェルの管弦楽法を強く意識しています。それはこの曲に限らず、たとえばベートーヴェンのソナタを弾く時に彼の交響曲を意識するのと同じ。常にオーケストレーションを意識して音を作ろうと考えています」
その彼女の“脳内オーケストレーション”は実に絶妙だ。「月の光」でも、なんだか今まで他であまり聴いたことがないような表現が聴こえてくる。もちろん良い意味で。
11月には東京で、西本智実指揮日本フィルとラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」を弾く。
「ラフマニノフは、エリーザベトのファイナルで弾いた協奏曲第2番の思い出もあり、これからもどんどん弾いていきたい作曲家。『パガニーニ狂詩曲』も西本さんとの共演も初めてですが、色々なインスピレーションをいただけそうで楽しみです」
「いま最も聴くべき期待の新人」と言ってしまうと、なにやら空虚な常套句のようで気恥ずかしさをおぼえることも多いけれど、演奏を聴き、話を聞いて、彼女のことをそう言い切るのに躊躇はない。現在の本拠はパリ、ブリュッセル、東京の三都市。昨年頃から日本での活動が本格化し始めた。本誌読者のような熱心な音楽ファンなら、今のうちから聴いておかないと、きっと後悔するはず。まずは11月の日本フィルで。そしてこのCDで。また、彼女は来年1月の札幌交響楽団東京公演(1/30 サントリーホール)にも登場する。こちらも楽しみだ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2018年11月号より)
日本フィルハーモニー交響楽団
第378回 名曲コンサート
2018.11/18(日)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp/
CD
『Souvenirs〜フランス作品集』
オクタヴィア・レコード
OVCT-00151 ¥3000+税
11/21(水)発売