ロシアから来た俊英が世界の様々な歌を情熱的に歌う
ロシアの帝都サンクトペテルブルク生まれのバリトン、ヴィタリ・ユシュマノフは、日本と日本の人々が大好きで我が国に在住しているという。筆者が彼の声を初めて聴いたのはちょうど2年前。東京音楽コンクール声楽部門の本選に出場する雄姿を、客席で目の当たりにしたのである。
内なる情熱をそう簡単に表には出さないロシアの芸術家。しかし、ユシュマノフの重めの響きは、イタリア・オペラのドラマティックな旋律美を、並々ならぬ勢いで描き上げていた。顔立ちは端正なのに、頬を染める血液の量は尋常ならざるもの。“赤々と燃える炎”を声でも面差しでも表現する彼なら、日本のオペラ界に良い刺激をもたらすはず──そう確信したのである。
この10月、日本での演奏活動開始から5周年の節目に、そのユシュマノフがリサイタルを開く。しかも、今回は新しいCD『日本歌曲名曲集』(オクタヴィア・レコード)の発売も記念してのコンサートになるとのこと。まずは、瀧廉太郎や平井康三郎が音に映した“日本語特有の淡い響き”を、彼の重厚な声音がどのように造形するか、多くの声楽ファンに注目してもらいたい。また、レオンカヴァッロやジョルダーノのオペラ・アリア、シューベルトやトスティ、それにラフマニノフの歌曲など、様々な言語による名旋律も期待大である。ピアノの塚田佳男と山田剛史の知的なサポートを得て、ユシュマノフの濃密な歌いぶりが、“情熱と理性がせめぎ合うステージ”へと変化する瞬間に、耳をそばだててみたい。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2018年10月号より)
2018.10/28(日)14:00 東京文化会館(小)
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337
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