私の心の叫びを演奏に託したい
ヴァレリー・アファナシエフは演奏する作品を徹底的に研究し、何年間もかけてその内奥を探求し、完全に作曲家と一体化した時点で演奏を世に送り出す。録音も同様である。
「私は聴いてくださる方たちの心の奥深くへ届く音楽を演奏したいと思っています。表面的な演奏や、やたらに自分の存在を前面に押し出す演奏は好きではありません。作曲家に敬意を表し、作品の深奥に迫り、その魅力を聴き手に届けたいのです」
長年シューベルトの作品を弾き続け、その個性的で濃密な自己表現を込めた演奏は聴き手の心に強い印象をもたらしているが、最近はベートーヴェンのソナタが加わった。
「私はシューベルトの作品に潜む孤独と沈黙を愛し、ベートーヴェンが他から遮断された世界で書いたソナタに魅了されます。彼らはプライベートな王国を築いた。その王国に入り込み、そこで感じた私の心の叫びを演奏に託したい。それが限りない自由を生み、生きる喜びをもたらしてくれるわけですから」
今回は自家薬籠中のシューベルトのピアノ・ソナタ第21番と3つのピアノ曲(D946)によるプログラムや、ベートーヴェンの4大ピアノ・ソナタを披露するプログラムもあり、アファナシエフの特有のテンポに彩られた自由闊達なピアニズムを堪能することができる。彼の演奏は類まれなる緊迫感と集中力がみなぎり、聴き手にも同様の集中力を要求する。特にシューベルトの旋律美の奥に宿る孤独の影に注目したい。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2018年10月号より)
2018.10/9(火)19:00 サントリーホール
2018.10/11(木)19:00 アクトシティ浜松(中)
問:ミュージックプラント03-3466-2258
http://www.mplant.co.jp/
他公演
2018.10/8(月・祝)ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2018.10/13(土)彩の国さいたま芸術劇場(0570-064-939)
※プログラムを含む各公演の詳細は上記URLでご確認ください。