エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル

熟成と深化、そして究極のピアニズム

C)Johann Sebastian Hänel

 キーシンのリサイタルを聴くと、「これ以上完成度の高いピアノ演奏は不可能ではないか」とさえ思えてくる。磨き抜かれた音で奏される、細部まで彫琢され尽くした音楽に、毎回感嘆させられる。だが彼は、10歳で協奏曲デビューした神童時代から、世界トップ級の存在となった40代の現在に至るまで、年を重ねるごとに新たな陰影や詩情を加え、熟成と深化を続けてきた。かくしてそのリサイタルは、最高級のピアノ演奏と真の巨匠への道程を同時体験する稀有の場となる。彼は今秋4年ぶりの来日公演を行う。“究極のピアニストの今”を、聴かずにいられるはずもない。
 リサイタルは、前半にベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」ソナタ、後半にラフマニノフの「前奏曲」(op.23とop.32)より10曲を置いた重量級のプログラム。キーシンは2017年、ドイツ・グラモフォンから『ベートーヴェン・リサイタル』をリリースし、全体の絶妙な構築と細部の緻密さが共生した名奏を聴かせている。それゆえフーガや変奏ほか多彩な要素を有する交響的大ソナタ「ハンマークラヴィーア」は必聴。実際同じプロによるロンドン公演を聴いた後藤菜穂子氏は、「自身のピアニズムをさらに極めようとするキーシンの内なる意思の強さが感じられ、聴衆は最初の和音から彼の気迫に圧倒されっぱなしだった」と伝えている。またラフマニノフの前奏曲集は、彼の音楽的源であるロシアン・ピアニズムの宝庫だけに、「骨太の響きと力強いタッチで、一曲一曲のキャラクターをダイナミックに描いた躍動感のある演奏」だったとの由。いずれも生体験への期待は、いやがうえにも膨らむ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ3018年7月号より)

2018.11/6(火)19:00 サントリーホール
11/14(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp/
他公演
2018.11/2(金)横浜みなとみらいホール(045-682-2000)
11/10(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)