ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

若き名匠が放つワーグナーの名管弦楽曲集

ピエタリ・インキネン
C)堀田力丸

 ラザレフからバトンを託された首席指揮者インキネンが、日本フィルをさらなる躍進に導いている。アンサンブルをまとめ、しっとりと溶け合いよく流れる、それでいて力強い音楽が聴かれるようになってきた。両者がどんな方向に向かうのかますます楽しみだ。
 4月27日、28日の定期はワーグナーを取り上げる。絶賛を浴びたオーストラリア・オペラでの《リング》全曲演奏にみられるように、インキネンにとってワーグナーはレパートリーの中核にある。日本フィルとも《ワルキューレ》第1幕(2013年9月)、就任披露演奏会での《ジークフリート》と《神々の黄昏》の抜粋(16年9月)と着実に共演経験を重ねており、とりわけ昨年5月の《ラインの黄金》では、演奏会形式でありながら簡易舞台を十全に活用、緊張感に満ちた演奏で聴衆をその神話的世界へと引きずり込んだ。
 今回は管弦楽のみの直球勝負。まずは《タンホイザー》序曲。細かく顫動する弦をコントロールしながら厚みのある響きにどうつなげていくか。続いて天から降ってくる光のように神々しい第1幕、ダイナミックな第3幕と《ローエングリン》の2つの前奏曲を対比的に演奏する。そして作曲家としても活躍したマゼールが編曲した“言葉のない《指環》”。上演に4日間を要する《リング》のポイントを一時間余りに手際よくまとめ、醍醐味を伝えてくれる。
 日本フィルは近年オペラに積極的に取り組んでいるが、音楽が劇と同時に進行するオペラ、とりわけドイツ音楽の核ともいうべきワーグナーで、彼らがどんな新しい表現の領野を切り開いていくのか、興味は尽きない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2018年3月号より)

第699回 東京定期演奏会
2018.4/27(金)19:00、4/28(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
http://www.japanphil.or.jp/