ピョートル・アンデルシェフスキは完璧主義者である。プログラムも現在弾きたい作品に限定し、全身全霊を傾ける。いまもっとも弾きたいのはJ.S.バッハで、これまでの来日公演では「イギリス組曲」第3番、第6番を披露。これらは彼の精神性が色濃く投影され、個性的な奏法と表現が前面に押し出された演奏だった。ここに今回は「平均律クラヴィーア曲集」第2巻からの6曲が加わるプログラム構成である。
アンデルシェフスキのバッハで特に印象的なのは装飾音。「イギリス組曲」第3番の「前奏曲」「サラバンド」においてそれは顕著で、装飾音が多用され、内声の響きを際立たせるため、あたかも自身が作曲したかのような曲想が展開される。
「バッハの内声はすべての声部の関連性において非常に重要です。旋律や和声や対位法などを縦の線で見るか横の線で見るか、自分がどのようにそれらを解釈していくかで演奏はまるで異なってくる。私がバッハの音楽に目覚めたのは19歳のころ。規模の大きな声楽作品に魅了されていて、『ロ短調ミサ』をよく聴いていました。フーガに惹かれていたのです。そこからバッハの対位法に興味が移り、ピアノ作品と対峙するようになりました。バッハが対位法をどのように探求し、進化させていくかに興味津々で、自分がそれを楽譜から読み取ることに喜びを抱きました」
インタビュー時にこう答えていたアンデルシェフスキ。満を持したオール・バッハ・プログラムで、洞察力に富んだバッハが聴き手の心を震わせるに違いない。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2018年2月号より)
2018.3/17(土)18:00 すみだトリフォニーホール
問:トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212
http://www.triphony.com/