篠﨑史子(ハープ)

 ハープは優雅なイメージのある楽器だが、時に激しく、またドラマティックにと、多種多様な表現力をもつ。これまで数々の名演を披露してきたハープ奏者の篠﨑史子が、今年14回目となる「ハープの個展」を開催する。1972年から続けてきた現代音楽を中心とするシリーズで、45周年となる今年は全曲委嘱新作という構成に挑む。
「ハープには誰もが知っている“これぞ”という名曲は意外と少ないんです。レパートリーを増やしていきたいという意味も込めて、今回は7分ほどのソロ、デュオの新作を9人の作曲家に委嘱しました」
 ベテランから若手まで、日本の創作界を担っている顔ぶれだが、最年少が薮田翔一だ。
「薮田さんは東京音大在学中に副科でハープを受講されていたんです。新作『祈りの風』は演奏が難しいソロ曲ですが、タイトル通り心地よい風が起きるような魅力に溢れていますね」
 ソロ曲はさらに4曲委嘱している。この中で権代敦彦の作品は篠﨑への“献呈”として書かれている。
「権代さんの新作はソロの『夕やけ』という作品で、左手の動きに難しい部分がありますが、チャレンジしたいですね。一柳慧さんは時間の感覚が独特でとてもユニークな作風ですし、近藤譲さんは、彼ならではの知的な線の動きを楽しんでいただける新作になると思います。湯浅譲二さんには2013年作曲の箏歌『雪は降る』をハープのために書き直していただきました。三好達治の詩を用いていて、私が歌う部分もあります」
 デュオ作品では篠﨑和子との母娘共演となる。実は和子は幼い頃はバレエに熱中し、ハープを本格的に始めたのは意外と遅かったというから驚きである。
「親子ですけれど、演奏はお互いに違う面もあるので、そうした点にも注目していただきたいですね。鷹羽弘晃さんの『バタフライ・エフェクト』、猿谷紀郎さんの『94の聯絡(れんらく)』は楽器2台の掛け合いがおもしろいものになりそうです。池辺晋一郎さんの『バイヴァランスⅫ』は彼が書き継いできたシリーズの一曲に位置づけられるものになります。野平一郎さんには私も和子も委嘱したことがあるのですが、『ミロワール・アルダン Ⅱ』は野平さんらしい洗練された響きに彩られていると思います」
 演奏順は各作品をもう少し吟味しながら決めることになるという。
「今回の演奏会はハープによる自分自身への挑戦ととらえていますので、私のチャレンジの軌跡を聴いていただけると嬉しいです」
 45周年の次は50周年へ。この先の活動にも数多くのファンが期待していることだろう。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2017年10月号から)

篠﨑史子 ハープの個展 ⅩⅣ
2017.10/2(月)19:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:東京コンサーツ03-3200-9755 
http://www.tokyo-concerts.co.jp/