愛と悦びに充ちた陶酔の幕開け
これは“愛”と“悦楽”のプログラムだ。上岡敏之が音楽監督に就任して9月から2シーズン目を迎え、日本の常識に囚われない選曲と構成がますます際立つ新日本フィルの定期演奏会。ルイ・ラングレが振るトリフォニー定期〈トパーズ〉では、シーズンの最初からその妙味が発揮される。
三角関係の悲劇を描いたシラーの戯曲に基づくシューマンの序曲「メッシーナの花嫁」(生演奏は貴重!)、マラルメの官能的な詩に拠るドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」、神秘主義によって恍惚の世界を描いたスクリャービンの「法悦の詩」が並ぶ全体の構成が、“愛と悦楽”そのもの。前半に置かれたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も甘美なテイストが同列のラインを形成する。さらには、前半=ドイツ前期ロマン派の濃密な響き、後半=フレーズが浮遊する近代の夢幻的な響きの対比も妙味十分だ。
1961年フランス生まれのラングレは、2002年からモーストリー・モーツァルト・フェスティバル、13年からシンシナティ響の音楽監督を務め、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ロンドン響、パリ管、スカラ座、ロイヤル・オペラ等に客演している実力者。楽曲を引き締めながら生気をもたらす彼が、初共演の新日本フィルからいかなる音楽を引き出すか? 大いに注目したい。またメンデルスゾーンのソリストは、豊かな響きと卓越した技巧に定評がある竹澤恭子。アメリカからパリに移って以来、表現に幅を加えている彼女の“メンコン”も、フランス繋がりのコラボと相まって期待値が高い。
すべてに陶酔感が漂う、魅惑のシーズン幕開けだ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年9月号より)
第578回 定期演奏会 トパーズ〈トリフォニー・シリーズ〉
2017.9/22(金)19:00、9/23(土・祝)14:00
すみだトリフォニーホール
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815
http://www.njp.or.jp/