クラウス・ハイマン(NAXOS創業者・NAXOSグループ会長)

芸術とビジネスの活発な協業を追求し続けた30年

C)HNH
 1987年、これまでにない廉価レーベルとして突如、音楽シーンに登場したナクソス・レーベル。現在は「ナクソスで見つからない曲はない」とさえ言われるほど、広範囲の作曲家・作品をカタログに加えている。
 創立30周年を迎えた同レーベルの躍進をリードしているのは、創業者であり、今もなおトップとして活躍しているクラウス・ハイマン。少年時代よりクラシック音楽を愛してきた彼は、メディアや広告会社といったビジネスで成功すると、香港を拠点に好きな音楽のため尽力するようになる。つまりナクソスの躍進は、氏の愛情と情熱あってこそなのだ。
「多くの人々にクラシック音楽を聴いてもらうため、廉価レーベルでスタートしましたが、価格帯はイギリスの紙幣でもっとも安かった5ポンド程度が妥当だと思いました。最初の100タイトル程度は誰もが知る名曲でしたが、クラシック音楽レーベルの中でも、かなり後発だったナクソスが存在価値を獲得できると、録音する曲もどんどん冒険的になっていったと思います。すべての決定権は私にありますが、だからといって私が大好きなヤナーチェクやプフィッツナーのオペラを出せるかというと、経営者であるもう一人の私がストップをかけるでしょうね」
 21世紀のリーディングCDレーベルとなったナクソスだが、インターネット・ビジネスへの反応も早かったといえるだろう。96年には息子の名前を引用したというウェブサイト「HNH.com」で、主に新譜のPRを行うため無料のストリーミング・サービスを開始。その後、多くのユーザーをもつ定額制の音楽配信(ストリーミング)サービス「ナクソス・ミュージック・ライブラリー(以下、NML)」を立ち上げ、現在は日本(http://ml.naxos.jp)においても800以上のレーベル、CD11万枚以上の音源がアップされている。
「近年はApple MusicやSpotify、AmazonのPrime Musicといった音楽配信サービスが充実してきました。しかしNMLの場合はクラシック音楽に特化していることが大きな特徴ですし、重要なのは『音楽辞書』という充実したコンテンツがあることなのです(日本のNMLでは「辞書と資料」というカテゴリー)。これは多くの音楽用語などを、テキスト説明だけでなく実際に音で聴けるようになっていたり、作曲家やアーティストの名前をそれぞれの国のネイティヴな発音で聴けるといった内容です。実はある国でユーザーのリサーチをした際、驚くべきことにNMLを使っている人の約60パーセントが音楽を聴くという目的ではなく、音楽辞書を使うためにアクセスしていたことがわかりました。オーケストラやメディアと提携し、NMLを活用いただいて新しいサービスを普及させることもできるでしょう」
 次の時代やブームを予言するかもしれない、ナクソスの動向やリリース・プランに、ぜひご注目を。
取材・文:オヤマダアツシ

ナクソス・ジャパン
http://naxos.jp/