勅使川原の美学が結晶化された名作、待望の再演
世界のダンス・シーンの最前線に立ち続ける鬼才、勅使川原三郎。その活動は近年ますます意欲的だ。発想を形にする貴重な実験場、作品のインキュベーターの役割を果たすアパラタスにおける公演でさえ常に完成度が高く、観客の眼差しのなかで燃焼しつくすその姿は崇高ですらある。国際的にも評価が高く、パリ・オペラ座はじめ海外の名門劇場からの招聘も目白押しだ。
世田谷パブリックシアターの開場20周年記念公演の一環として、その勅使川原の伝説的な作品、『ABSOLUTE ZERO 絶対零度』(構成・振付・美術・照明:勅使川原三郎)が18年ぶりに再演される。1998年、「創作における徹底した抽象」を目指したひとつの到達点として、勅使川原の美学が結晶化した舞台。 無駄なものを削ぎ落とし、純化された動きには一分の隙もなく、研ぎ澄まされた感性そのものがシャープな動きとなり、フォルムとなって舞台上に立ち現れるかの印象を与える。
創作上、想定されるのが摂氏マイナス273度という到達不可能な「エントロピー・ゼロ」の世界。勅使川原は、静止の極致で極小単位として始まる異質な動きをダンスとして掬い取ろうとする。真空では微小な動きが増幅するという。絶対的停止と増幅される動き。瞬時に消滅と起生を繰り返すダンスの原点を見つめる作品と言えよう。
初演からまもなく20年。モーツァルトのクラリネット協奏曲の澄んだ音色にのって衰えを見せない勅使川原の踊りが冴える。類稀なパートナー、佐東利穂子とのデュエット。互いに刺激し合い、昇華しながら、2人の化学反応が何を生み出すか見届けたい。
文:立木燁子
(ぶらあぼ 2017年6月号から)
6/1(木)〜6/4(日) 世田谷パブリックシアター
問:世田谷パブリックシアターチケットセンター03-5432-1515
http://setagaya-pt.jp/