下野竜也(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

“ある芸術家”の心の深奥とドラマを描く

 コンサートの告知チラシに『ベルリオーズの失恋劇場 その① 悪夢に苦しむ男』という愉快な(でも本質を突いた)キャッチフレーズが掲載されている、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の11月定期演奏会。その“失恋劇場”が繰り広げられるのは、おなじみの「幻想交響曲」だ。言うまでもなく、東京だけでも年に何度も演奏されているであろう人気曲であり、それだけに「どこかが違う」という演奏を求めてしまうのは道理だろう。
 指揮台に立つのは、これまでにもさまざまな曲に新たな光を当て、ときには未知の影を浮かび上がらせてきた下野竜也。今回スポットライトを当てるのは作曲者のベルリオーズと女優スミッソンとの関係か、曲の主役とも言える“ある芸術家”の心の闇か、それともスコアという音楽の設計図なのか。失恋劇場の開演が待たれる。
 その前に演奏されるモーツァルトのピアノ協奏曲第25番も、ハ長調という明朗な響きに乗せて展開される“劇”になるかもしれない。というのも、ソリストとして登場する菊池洋子はイタリアでフォルテピアノの演奏を学び、「モーツァルトの作品は鍵盤上のオペラ」とコメントしたこともあるからだ。モーツァルトによるピアノ協奏曲の中でもエネルギーに満ちている作品であり、第1楽章はまさにオペラの序曲かと思うような幕開け。ゆったりとしたアリア風の第2楽章、優雅でありながら劇的な第3楽章と、30分ほどの“モーツァルト劇場”を堪能できるだろう。
文:オヤマダアツシ
(ぶらあぼ 2016年8月号から)

第301回 定期演奏会
11/6(日)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002
http://www.cityphil.jp