ロシアの巨匠の真実の声を聴く
断言していい。ラザレフ&日本フィルのロシアものは、充実度において、いま日本オーケストラ界の中でも最上位に位置している。特に2年来のショスタコーヴィチ交響曲シリーズは圧巻だ。まずはプレ的な7番から、4番、11番、8番と続く大曲路線のシリーズ前半で、壮絶な熱演を展開。その真の凄さは、単なる爆演ではなく、緻密かつ引き締まった音作りの中で、有機的なエネルギーが創出されている点と、作曲者や曲への強いシンパシーを反映した雄弁でこまやかな表現が、他と一線を画した説得力を生み出している点にある。
さて今期は軽量路線(?)。昨秋の9番を経て、5月に6番が披露される。陰鬱に始まり、異常なほど浮かれた熱狂に至る、序破急的な構成の3楽章交響曲だ。鬱と躁の振り幅の広いこの曲で、ラザレフのダイナミックレンジの広さが効果を発揮するのはもちろんだが、さらに期待できるのは、この不思議な曲の真実の姿。なぜなら前回の9番で、シニカルなディヴェルティメント風の同曲が、実は情緒豊かな“ロシア音楽”であることが明示されたからだ。それゆえ6番もイメージ一新の可能性が高い。
ラザレフの公演は、カップリング曲も魅力。今回は、チャイコフスキーの組曲第1番だ。第4交響曲の直後に書かれたこの曲は、厳しいフーガあり、バレエ風の優雅な曲あり、愛らしい音楽あり…といった多彩な玉手箱。ラザレフいわく「シンフォニー以上にロシア的要素の濃い組曲こそが、チャイコフスキーの神髄である」。生演奏など稀な曲だけに、このチャンスを逃してはならない。
本公演、ともかく必聴!
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年5月号から)
第680回 東京定期演奏会 ラザレフが刻むロシアの魂SeasonⅢ ショスタコーヴィチ5
5/20(金)19:00、5/21(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp