東京都交響楽団 「作曲家の肖像」シリーズ Vol.106(最終回) 日本

フィナーレは日本人作曲家の佳品を集めて

 一人の作曲家に焦点を当ててプログラミングする都響の「作曲家の肖像」シリーズ。このところは趣向を変えて国ごとにテーマを設定していたが、最終回は都響が誇る音楽監督の大野和士が登場し、我が日本の作曲家たちをフィーチャーする。
 武満徹「冬(ウィンター)」は1972年の札幌冬季五輪を記念して作曲された。7分ほどの作品だが、吹きすさぶ吹雪のような光景がメタリックな響きに彩られた夢幻的な空間に変容していく。溢れんばかりのアイディアに満ちた前衛的な書法を持ちながら、後年のタケミツ・トーンの息吹も垣間見える興味深い小品だ。
 柴田南雄「遊楽(ゆうがく) no.54」は、1977年に都響の定期100回記念に作曲されたもの。博識で知られ古今東西の音の要素を自らの創作に盛り込んだ柴田は、日本古来の歌も収集し実作へと応用した。祝祭的な雰囲気を持つ「遊楽」も、お囃子などを素材としているという。
 メインには池辺晋一郎の近作「交響曲第9番」。作曲家にとって“第九”は特別な意味を持つ。作曲にあたって池辺はベートーヴェンも意識し、合唱こそ含まないものの、全9楽章、演奏時間50分の堂々たる大作が出来上がった。うち6つの楽章ではソプラノとバリトン、2人の独唱者が詩人・長田弘のテキストによる歌を歌う。歌詞は自然との交感によって美の観念や世界のはじまりへと誘われていく思考を、わかりやすい言葉で綴ったものだが、それを反映してか、音楽もゆったりとした広がりを感じさせる。2013年、作曲家の古希バースデーコンサートで初演されたが、今回のソリスト、幸田浩子、宮本益光は初演時のメンバーだ。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年2月号から)

3/5(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド03-3822-0727
http://www.tmso.or.jp