Japan National Orchestra 5周年スペシャル対談 反田恭平×岡本誠司×荒木奏美

左より:反田恭平 ©S.Ohsugi/岡本誠司 ©Yuji Ueno/荒木奏美

取材・文:高坂はる香

――まずはジャパン・ナショナルオーケストラ(JNO)が始まった頃の思い出からお聞きしたいと思います。岡本さんは弦楽器、荒木さんは管楽器のセクションについて、最初の頃から反田さんに相談されていたのですね。

岡本 僕が反田くんと知り合ったのは10年ほど前、ロームのスカラシップコンサートの機会に、ぜひ一緒にとオファーして共演したことがきっかけでした。
 仲良くなってきた頃、彼がボソっと「実はオケをやりたいんだよね」と言っていたのですが、ピアニストがオケをやりたいってどういうこと? と全然ピンとこなくて(笑)。でも聞いていくうちに、同世代で妥協なく音楽ができるアンサンブルを作り、それをいつかオーケストラにしたいという話だと知って、それは僕もぜひやってみたいなと。
 そうして2018年、弦楽器奏者8人と彼の9人で、前身のMLMダブル・カルテットが結成されました。そこから8年でここまで来たと思うと、感慨深いですね。

荒木 私のほうは、東京交響楽団にいたときソリストだった反田くんと共演したことはあって、同世代にすごいピアニストがいるなと思っていました。その後、2016年に出光音楽賞を一緒に受賞したとき初めて話をしたのですが、記念演奏会の本番前すごく緊張すると言っているのを聞いて、「反田くんでもちゃんと緊張するんだ(笑)」と親しみを感じたことをよく覚えています。
 その時、反田くんがいつか一緒に演奏できたらいいねとポロッと言っていたけど、きっと室内楽とかの話だろうと思っていて。

反田 その頃にはすでに管楽器も入れたオケの構想はあったけど、初対面だしあまり大きなことを言うのもと思って、とりあえず「一緒に演奏できたら」と言ったのをすごく覚えてます。

荒木 それからしばらく経って連絡がきたらオーケストラを作るという話で、管楽器奏者はあまり知らないから協力してほしいと言われ、おもしろそうだからやりたいと迷わず返事をしたんです。

©S.Ohsugi

反田 僕はピアノ科だし、高校を卒業してすぐ留学したから、弦楽器、管楽器の日本の若手をほぼ知らなかったので、二人の紹介にとても助けられました。彼らが紹介してくれる人は隣にいて安心感があるというか、オケを一緒にやるという場面で頼りになる人たちばかりなんです。
 僕も指揮の経験を重ね、今でこそ、例えばボウイングにもこだわりたいことがどんどん増えてきていますけど、最初は何もわからなかったから、二人をはじめメンバーに何から何まで教えてもらいました。気づいたことは率直に言ってくれるので、本当に勉強になります。

岡本 オーケストラは信頼が大切で、だからこそそれぞれの能力を気持ちよく、最大の形で出せると思うんです。普段はできないけど、JNOならできる挑戦も可能になります。5年間でお互いのやりたいことを察する場面も増え、だからこそ逆に、それも素敵だけど自分はこうしたいという本音を伝え合えるようになりました。

「ヒヤッとする議論」が音楽を磨く

――本音をぶつけあうことで逆にヒヤッとする場面はありませんか?

岡本 僕と反田くんは時々みんなをヒヤッとさせているかも(笑)。リハーサル中、かなり言いたいことを言い合っているから!

反田 でも、それこそ僕がやりたいことなんですよね。9人で始まった頃と同じ対話を、70人、80人になっても続けたい。その熱量を失うと、予定調和で音楽が進むようになってしまいますから。……予定調和でもいい演奏ができるのは、伝統を積み重ねてきたからということもできるけれど、我々は新しい団体だし、むしろヒヤッとするディスカッションは続けたいよね。

©S.Ohsugi

荒木 管楽器の位置から前のほうで誠司くんと反田くんが意見をぶつけ合っているところを見るの、私は普通に楽しんでいますよ(笑)。それにその過程を見ることで、私たちもこうしてみようと考えるきっかけになります。
 あとさっき反田くんが最初は何もわからなかったと言っていましたが、それが逆によかったところもあるんです。指揮者によっては経験ゆえに「この楽器でこの表現は難しいかな」と無理を求められないことがあります。でも反田くんは関係なくとにかく音の理想を細かく伝えてくれるから、私たちも、それを実現するための技術や考え方を見つけるほうに向かえます。でも反田くんは音楽のことを考えてまず理想を伝えてくれるから、私たちも、それを実現するための技術や考え方を見つけるほうに向かえます。

反田 僕はソリストでもあるから、普段、楽譜に書いてあるものからどんな音を鳴らすかを自分で常に突き詰めているので、一人で音を出すわけでない時でも、そこに妥協したくないと感じるんです。
 もちろん楽器によって不可能な表現はあって、それは今も勉強し続けています。ただ何か理想を思い描いたとき、それはできないとやる前からすぐ諦める人もいれば、なかなか諦めない人もいて、僕はそこは後者でありたいし、みんなにも後者であってほしいと思います。

――この5年間にはパンデミックなどいろいろなことが起きました。反田さんは社長という立場でもありますが、振り返っていかがですか?

反田 あっという間でした。最初はみんなで会社をやるのがどういうことか理解していないメンバーも多く、部活みたいなノリで来ている人もいたと思うのですが、だんだん一人一人の意識が変わっていると感じます。既存のスタイルにとらわれないベンチャー企業のようなスタイルでやっていますが、たくさんの方に支えられてここまで着々と成長してこられてよかったですね。

眉毛でわかる!?以心伝心のアンサンブル

――そして、節目の年を記念するツアーではブラームスを取り上げます。

反田 今は亡き指揮の恩師から「いつかブラームスの交響曲全曲でヨーロッパツアーをするといい」と言われたことが心に残っているのもあって、生涯で繰り返し取り組んでいきたい作曲家の一人なんです。

岡本 ブラームスの作品は、音楽を愛する人間が最も愛を注ぐことができ、そしてそれを受け止めてくれます。数年前に1番の交響曲を取り上げましたが、今度の2番は、ブラームスの魅力が詰まったバランスの良い作品。同じニ長調で同時期に書かれたヴァイオリン協奏曲は、ソリストとして何度も演奏していますが、時間をかけてリハーサルができるJNOだからこその表現に挑みたいですね。2楽章にはオーボエ・ソロもあります!

荒木 ブラームスの協奏曲はまるでシンフォニーのようで、ソリストとオーケストラが一体になります。私も何度か演奏しましたが、JNOでは、指揮者の交通整理を頼りに “ここ!”と指示されたところに入るのとは違う、ソリストとオケお互いに表現の中に音を入れていく室内楽的な音楽のつくり方ができそうなので、すごく楽しみです。

©S.Ohsugi

反田 ピアノ協奏曲はソリストとして弾くだけでも構えるのに、今回は弾き振りですから、たぶん、過去一大変になるのではないかなと……ラフマニノフの協奏曲の弾き振りよりはいいかもしれないけど。

荒木 ブラームスのほうが難しいんじゃない?

反田 本当(笑)!?

荒木 聴き取りにくい細かい音との絡み合いがたくさんあったり、繊細な音楽の動きも多かったりするところが、ちょっと難しいだろうなと予想しています。もちろん心配しているという意味じゃないんだけど(笑)、かなりやりがいはありそう。

岡本 若いブラームスのエネルギーが表れていて、やりたいことを全部詰め込もうという野心が現れた作品だもんね。反田くんが、ピアノソロが入る前の長いイントロダクションの音楽をどう作ろうとしているのかも楽しみです。

――指揮者がピアノを弾くのに忙しいときは、コンマスが大変ということですね!

反田 たぶん40分ずっとコンマスが大変(笑)。

荒木 そう、誠司くんがいるから心配ないね!

反田 でも誠司くんは“振る”っていうことは絶対しないから。たまに指揮者がいる横で“振る”コンマスもいるけど……。

荒木 誠司くんはそれはしない。というか二人とも顔で拍がわかる(笑)。

反田 眉毛の動きかな(笑)。

荒木 なんだろう、2小節先ぐらいのフレーズまで、顔でなんとなくわかる。

岡本 それは奏美さんの特殊能力だろうね(笑)。あとはお互いの信頼関係があるということかな。

妥協があるコンサートはひとつもない

――経験を重ね、ますますチャレンジングなレパートリーに取り組んでいるところだと思いますが、今後JNOでやってみたいことは?

反田 個人的にはハイドンの交響曲をやりたいですね。構成が独特でトリッキーなところもあるので、思いの外振りづらいんです。でもウィーン音楽、そしてクラシック音楽の基盤の一つですから、今のうちに取り組みたいです。
 あとは、自分が指揮者としてソリストと一緒にもっとピアノ協奏曲を取り上げたいですね。例えばラフマニノフの協奏曲も全体に納得する演奏はなかなかありませんが、自分ならピアニストの気持ちをよくわかって振ることができると思うので。
 他にもメンバーからこの曲をやってみたいという意見が出ることもたくさんあって、それによって課題に気づくこともあるので、JNOとならなんでもやってみたいですね。

岡本 ハイドンっていうアイディアは今初めて聞きましたけど、僕もJNOとなら本当になんでもやってみたいですね。反田くんはその場でできるベストをやらなければ気が済まない人だから、見ていてハッとさせられることが多いです。
 コアメンバーでできる小編成や中編成の作品は今後も大事にしたいし、同時に夢は大きく、大編成の作品もやりたいですよね。

荒木 妥協があるコンサートは本当にひとつもないし、何かを感じてもらえるような音楽を作ることにいつも意識が向いている団体なので、聴いていただくと、作品の新しい魅力を見つけてもらえると思います。
 メンバーからは一緒に演奏するたびに刺激をもらえて、だからこそ、自分も常に刺激を与えられる演奏をしたいと感じます。少人数から始まった起源も大事にしつつ、大編成の曲への挑戦もして、いろいろな方向に活動が広がっていくといいですよね。

反田 ソリストとして海外のオーケストラと共演していると、なぜかそこで知り合う方がJNOの本番に乗りたいといってくれることがたくさんあるんです。海外で活躍するメンバーも多いから、みんなの人徳、人脈を活かして、10周年あたりでは、コアメンバーとゲストによるドリームオーケストラで超大編成の曲がやれたらいいですね。
 僕が共演するメンバーを選んだり、推薦してもらったりするときに一番大切にしているのは、「人として信頼できる人」であることです。「良い人だけでできたオーケストラ」と言うと少し語弊があるかもしれませんが、純粋に音楽を愛し、音楽を楽しみ、仲間と誠実に向き合える人たちが集まるオーケストラが僕の理想です。現実には、大編成のオーケストラでそんな理想を実現するのは難しいのかもしれません。だからこそ、「そんなの無理だ」と笑われるような理想でも、諦めずに掲げ続けたいと思っています。その想いを言葉にし続けることで、仲間やスタッフにも共感してもらい、「一緒に実現したい」と思ってもらえる。そして、いつか本当にそんなオーケストラが実現できたら、これほど嬉しいことはありません。

©Yuji Ueno

反田恭平&ジャパン・ナショナル・オーケストラ 夏ツアー2026
8/29(土)〜9/17(木) 熊本、長崎、奈良、東京、岐阜、兵庫、鳥取、東京
https://www.jno.co.jp
※ツアーの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


高坂はる香 Haruka Kosaka

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/