「自分が知らない音楽と出会いたい」
――藤倉大が語る、東京芸術劇場「ボンクリ・フェス」の最終章

Dai Fujikura
作曲/ボンクリ・フェス アーティスティック・ディレクター

 「人間は皆、生まれつきクリエイティヴだ」という意味で「ボーン・クリエイティヴ」——略して「ボンクリ」といえば、作曲家・藤倉大が東京芸術劇場と組んで2017年から開催してきた斬新な音楽祭だ。今年2026年で最終回を迎えるにあたり、アーティスティック・ディレクター藤倉に思いを聞いた。

 「丸一日劇場を使うとしたら何をやりたい?と尋ねられたのが始まりでした。僕は音楽祭の運営が初めてだったので、すでにフェスを成功させた経験のある友人たちを呼んで、彼らの希望する内容をやってもらったんです。お寿司屋さんで、最高のネタがあるんですよ!と言われたら食べたくなりません? 仮に、口に合わなかったとしても人生経験になるし、食べて良かったと感じられるじゃないですか」

 トップダウンで内容を決定しないのが藤倉流。継続して続いてきたのも周囲の意見を尊重したためだ。

 「皆と一緒に何かを作るのが好きなので、ここまで回を重ねてきましたが、僕としては音楽祭をやってもやらなくてもいい。あくまで作曲がやりたい人間なので。それに作曲って100%全部、自分で決断をくださなきゃいけない仕事だから、それ以外のことを自分で全て決めるなんてしたくない(笑)。だから、これまでずっと皆さんからの提案を持ち寄ってプログラムを決めてきました。敢えて僕が希望しているのは、技術スタッフにクリエイティヴな人たちが沢山いることが分かったので、彼らが大活躍するフェスにしたいということ。作曲家も本来は裏方ですからね(笑)。僕にとっては、そういう人たちと仲良くなれるのがボンクリ・フェスなんです」

 だから最後とはいえ、名残惜しくはないそう。

 「正式決定の前から最後になるかもって話は耳にしていたので、次が最後だからって口説き文句にして出演者と交渉していたんですよ。だから最後じゃなくなったと言われた方が困ります(笑)。自分が知らない音楽と出会いたいと強く願っているので、どれも楽しみな公演ばかりになりました。

 例えばポーランドから旅費も助成金で賄うからボンクリで演奏させてもらえませんかと前から売り込みがあったので、何十人もいる候補から皆で相談して一番面白そうと思った、マルチエフェクトやルーパーを使用する弦楽四重奏団ネオ・カルテットを選びました。スロバキアのクエーサーズ・アンサンブルは僕の曲を演奏してくれたりと仲が良くて、前から日本にも行きたいと言っていて。来られたら演奏の場は提供できるよ、と話をしていたら実現しました! あ、そうそう作曲家・指揮者でもある芸術監督のイヴァン・ブッファと初めて会ったのは東京芸術劇場だったんです」

 初回から出演している常連組も、面白そうな企画が目白押しだ。

 「ノルウェーのヤン・バングは誰と来るのか完全にお任せしているんですけれど、今年の即興演奏は大友良英さんと僕が加わります。日本のアンサンブル・ノマドには、87歳で現役の作曲家・ピアニストであるジグムント・クラウゼや、バーミンガムでご一緒したことのあるリサ・イリーン、そして日本にお住いのテリー・ライリーの作品などを取り上げます。ライリー作品は他にも、フルートのクレア・チェイスのために作曲された『ザ・ホーリー・リフト・オフ』も「フルートの部屋」でクレア本人が演奏しますよ。あと僕がお風呂に入っている時、Spotifyのランダム再生ですごくいい感じの曲が流れてきて、湯船からあがって確認したら蓮沼執太さんの音楽だったんです。コンタクトをとったら、ノマドで演奏できるようにアレンジしてくださることになりました」

 他にも参加型のワークショップや、無料プログラムなど魅力的な公演・イベントが一日中楽しめる。

 「公演の合間に時間が空いてしまっても、いつでも気軽に楽しめるような仕組みになっています。そのひとつが坂本龍一さんのアルバムを、坂本さんが愛したスピーカーで聴ける部屋です。今年お願いした晩年の『async』は発表された頃より、何故だか最近よく聴くようになりましたね。ご本人は嫌がるでしょうけれど、僕にとって坂本さんは永遠のポップスターです」

取材・文:小室敬幸 写真:中村風詩人
(ぶらあぼ2026年3月号より)

ボンクリ・フェス2026
“Born Creative” Festival 2026
3/1(日) 東京芸術劇場


●ポーランドの部屋〜弦楽カルテット×電子音×映像
11:45 シアターイースト

出演/ネオ・カルテット
●アンサンブル・ノマドの部屋〜室内楽アラカルト!
13:30 シアターウエスト

出演/アンサンブル・ノマド、佐藤紀雄(指揮/ギター)、出会ユキ(笙)
●ノルウェーの部屋
 〜ヤン・バングと仲間たちによるエレクトロ・セッション

15:00 シアターイースト
出演/ヤン・バング(ライブ・サンプリング)、ニルス・ペッター・モルヴェル(トランペット)、アイヴィン・オールセット(ギター/エレクトロニクス)、大友良英、藤倉 大(シンセサイザー)
●スロバキアの部屋〜クエーサーズ・アンサンブルがやってくる!
17:00 シアターウエスト
出演/クエーサーズ・アンサンブル
●フルートの部屋〜奇才 クレア・チェイスの妙技
16:45 リハーサルルームL

出演/クレア・チェイス(フルート)
●子どものためのフルートの部屋
12:30 リハーサルルームL

出演/クレア・チェイス(フルート)

問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 
https://www.geigeki.jp 
https://www.borncreativefestival.com

※無料プログラムやワークショップあり。フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


小室敬幸 Takayuki Komuro

1986年、茨城県出身。東京音楽大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は大学の助手と非常勤講師を経て、現在は音楽ライター。クラシック音楽、現代音楽、ジャズ、映画音楽を中心に演奏会やCDの曲目解説、雑誌やWEBメディアにインタビュー記事を執筆。また、現在進行形のジャズを紹介するMOOK『Jazz The New Chapter』にも寄稿している。共著に『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』『ピアノへの旅』。