新進指揮者・喜古恵理香が語る、自身のルーツと恩師・広上淳一の教え——センチュリー豊中名曲シリーズ(大阪)に向けて

喜古恵理香

取材・文:林昌英

 豊中市立文化芸術センターで開催される「センチュリー豊中名曲シリーズ」は、毎回公演テーマとなる言葉を掲げ、日本センチュリー交響楽団が名曲の数々を届けるシリーズ。3月のVol.37『「花」初耳花言葉』で指揮を務めるのは喜古恵理香。東京音楽大学および大学院に学び、2022年広島での次世代指揮者コンクールで第3位・聴衆賞・オーケストラ賞を受賞。いま活躍の場を急速に広げている、期待の俊才指揮者である。ここでは喜古自身のことから、ステージに懸ける思いまでを語ってもらった。

——喜古さんご自身について、音楽家としてのルーツから振り返っていただけますか?

 ピアノは小さい頃から弾いていて、中学高校のオーケストラ部ではヴァイオリンも弾きました。音楽は楽しく趣味で続けようと思っていたんですが、音楽好きの母親が音楽の道に行かせたがっていたのと、高校生のときに指揮をする機会があり、素人なりにスコアを読んでいたらそれが楽しくて。二次元のものが三次元に組みあがっていく感覚、それをみんなの真ん中で体験できることがすごく面白く、そこから指揮者を目指しはじめました。

——音楽の道を決意したのは意外に遅めなんですね。

 小学生のときに桐朋学園の子供のための音楽教室には3年ほど通って、ソルフェージュとかもしっかりやりましたが、高校で決意してからは新たに先生を探し直して、演奏会にも通いました。そのときに広上淳一先生の指揮に特に感銘を受けて、先生がいる東京音楽大学の指揮科を受けました。

——広上先生はじめ東京音楽大学での思い出は?

 実は私は人前に出るのが苦手で、声もあまり出なくて……という性格でしたが、広上先生が見かねて「1ヵ月間、校門に来たら名前を大声で言ってから入れ」と。それを真面目にやったんですよ(笑)。最初は本当に嫌でしたが、途中から平気になって大声も出るようになり、度胸がついて(笑)。大学ではすばらしい先生方からスコアの読み方、オーケストラを引っ張る技術など、多くの音楽のことを学びましたが、そういう人前に立つ覚悟、指揮台に乗る覚悟みたいなものも相当教えていただきました。おかげで苦手も克服できて、強く生きられていると思います(笑)。

 学生同士でお互いピアノを弾いて振って議論して、という勉強会みたいな時間もたくさんありました。東京音大は指揮科の先輩後輩のつながりが強くて、いまでも仲良くさせていただいています。指揮者ってやはり孤独な職業で、会う機会も多くないけど、会えたときにギスギスせず、お互いにがんばろう、みたいなファミリー感があるのは素敵な関係だと思います。

広上淳一先生と
(提供:喜古恵理香さん)

歌心あふれるシューマン「春」を

 喜古は大学院修了後、広上が日生劇場でゴリホフ《アイナダマール》日本初演をする際、恩師の指名で副指揮者を務め、これをきっかけに多くのオペラ団体やプロダクションに関わってきた。「やっぱり歌は音楽の根源だと思います。歌も指揮も呼吸が大事なのですごく勉強になるし、面白い」と語る喜古だが、22年のコンクール以来、各地のプロオーケストラの仕事も増えている。

 その大きな公演のひとつとなるのが、3月28日の豊中名曲シリーズだ。前半は同楽団客員コンサートマスターの篠原悠那のソロでヴィヴァルディ「四季」を指揮なしで。後半は喜古の指揮で、ディーリアス「小管弦楽のための2つの小品」とシューマン交響曲第1番「春」。「花」という公演テーマにつながるキーワードが浮かび上がるプログラムだ。

 日本センチュリー響は学校公演なども含め、これまで3回ほど共演してきました。あと、2年前のお正月のテレビ番組「格付けチェック」でもご一緒しました(笑)。篠原悠那さんと初めてお会いしたのもそのときです。

 篠原さんのヴァイオリンはとにかく音がすごくきれいです。人柄も音も澄んだ感じで特別ですね。この公演でも前半ソロの後、後半はコンサートマスターをしてくれるそうで、うれしいですね。私の振る後半の2曲は先に決まっていたんですが、どちらも大好きな曲です。

日本センチュリー響とともにベートーヴェンの交響曲第3番を披露したびわ湖ホール名曲コンサート(2023年7月)
提供:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

——ディーリアスは〈春初めてのカッコウを聞いて〉と〈川の上の夏の夜〉の2曲。春や季節というテーマにつながります。

 ディーリアスの響きは独特でいいですよね。この作品も小編成だけど弦楽器が細かく分かれていて、豊かで厚みがあるけど爽やかな、不思議な響きがあります。私は自然の中を歩くのが好きで、山歩きやハイキングにも行きます。自然をテーマにしている曲も好んでいて、これも楽しみです。

——シューマンの「春」はいかがでしょうか?

 演奏会で振るのは初めてですが、家でよく流れていた曲で小さい頃から大好きなんです。シューマンがこの曲を書いた1841年は、多くの歌曲を書いた「歌曲の年」の翌年です。この曲には歌曲のような要素も多く、歌心あふれる「春」にしたいですね。喜び爆発かと思えば、少し葛藤みたいなものもある。晴れやかなのにちょっと寂しさがある、そういうコントラストも作れれば。うまくいろんな歌が重なって、バランスも考えつつ、一個の喜びになるような感じにしたいですね。

1月、豊中市立文化芸術センターで行われたトークイベントに篠原さん(左から2人目)とともに登壇
左:小味渕彦之さん(豊中市立文化芸術センター総合館長)

——最後に、この公演についてと、今後のご自身の活動について。

 日本センチュリー響は、場面ごとに最高に鮮やかな音色がパッと出て、一瞬で心をつかまれます。コミュニケーションをよく取ってくださるオーケストラなので、リハーサルから一緒に音楽を作ることを楽しみたい。春の訪れを日本センチュリー響の晴れやかな音色、素晴らしい響きと共に一緒に感じていただければと思います。

 豊中市立文化芸術センター大ホールは今回初めてになりますが、本当に響きの良いホールだと評判はよく聞いていて、それも楽しみにしております。

 自分の活動については、とにかく一つひとつ丁寧に、と常に考えています。指揮者は一生勉強なので、いろいろなアンテナを張りながらやっていきたいと思います。


センチュリー豊中名曲シリーズVol.37「花」
初耳花言葉

2026.3/28(土)15:00 大阪/豊中市立文化芸術センター


出演
喜古恵理香(指揮)
篠原悠那(ヴァイオリン)
日本センチュリー交響楽団(管弦楽)

プログラム
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集『和声と創意の試み』 op.8より「四季」(指揮なし)
ディーリアス:小管弦楽のための2つの小品
シューマン:交響曲 第1番 変ロ長調 op.38「春」

問:豊中市立文化芸術センターチケットオフィス06-6864-5000
https://www.toyonaka-hall.jp


林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。