開館30周年・京都コンサートホールが切り拓くインクルーシブな音楽体験――初のバリアフリーコンサートを開催!

INTERVIEW 田村緑(ピアニスト)×高野裕子(京都コンサートホール プロデューサー)

 2026年3月14日、京都コンサートホールの開館30周年記念事業の一環で行われているクラシック音楽イベント「Kyoto Music Caravan 2025」の最終公演として、同ホール初となるバリアフリーコンサート「みんなのやさしいコンサート」が開催される。
 演奏とお話を担当される田村緑さん(ピアニスト)と、当ホールのプロデューサーである高野裕子さんのお二人に、本公演についてお話をきいた。

左:高野裕子 右:田村緑

――どのような経緯でバリアフリーコンサートを企画されたのでしょうか?

高野「まず大きなきっかけとなったのは、私たちが行っているアウトリーチです。ホール主催事業では未就学児は入場できないのですが、行く先々で小さなお子さんや身体の不自由な方、ご高齢の方などにお会いします。その方たちは音楽がとてもお好きなのに、実際にホールにご来場いただくことが難しい方がいらっしゃることに気づきました。そのような方々もホールでリラックスして生の演奏を楽しんでいただけるような企画をしたいなと。
 同じ頃、田村緑さんに、アウトリーチ事業の研修会講師としてお越しいただいたのです。私がやりたいと思っていることと、緑さんのご活動がうまくマッチしそうだという直感があり、お声がけしたという経緯です」

――田村さんの豊かなアウトリーチ経験が背景にあるということですね。

田村「イギリス留学中の話ですが、パイオニア株式会社に勤めている幼なじみがいました。パイオニアさんは、聴覚障がいの方にボディソニックを通して音楽を身体で楽しんでもらう音楽会を開催されていたのですが、その幼なじみから『その音楽会で演奏してくれない?』と誘われました。その演奏の際に耳が聞こえづらい人、聞こえない方にも音楽を楽しむ方法があることを知り、自主企画でリサイタルをする時に自分もできることをやりたいと思いました。視覚障がいの方をお招きし、手話通訳をつけました。その後一般財団法人地域創造の派遣制度やホールの自主事業等で小学校、支援学級、盲学校など全国各地に行っており、こうした活動は20年以上になっています。
 初めて支援学級にアウトリーチに行った際、みんな解き放たれていて、それぞれありのままで『そのあなたを認めますよ』といった空気がありました。その空間は居心地がよく、自分にとってすごく新しくて。それがスタートです」

※音を振動に変える装置が組み込まれたポーチとザブトンクッションを介して、聴覚障がいのある人でも音楽を体感できる音響システム

田村緑
アウトリーチ公演の様子

――今回のコンサートのプログラミングの特徴は?

田村「ホールにすばらしいオルガンがあるので、オルガンを入れた室内楽編成がベースです。ファイナルコンサートですし、自分の中でのキーワードは“ゴージャス”&“フェスティブ”! オルガンとピアノのデュオは珍しいので、オープニングは二重奏(サン=サーンス(伊藤巧真編):ピアノとオルガンのための讃美歌~交響曲第3番「オルガン付き」第2楽章 第2部の主題による~)で『これから楽しいコンサートが始まるよ』という雰囲気を作っています。
 その後は『動物の謝肉祭』を抜粋でとりあげます。6人の奏者がいて、伊藤巧真さんの編曲でそれぞれの楽器の個性をフィーチャーしてもらっています。クイズや参加型を入れ、じっと聴くだけでないよう工夫しています」

高野「後半は、音楽をしっかり聴いていただきたく、『展覧会の絵』をメインに。オルガンを使いながら、クラシック音楽の迫力や振動、響きを大事にした選曲です。以前にオルガンを含む編曲をお願いしたことのある松岡あさひさんに、このコンサートのために書きおろしてもらいました」

田村「大きな曲と大きな曲の間には、ヴァイオリンの石上真由子さんにリベルタンゴを弾いていただきます。音楽のリズムがもつ力を身体で感じる時間にできればと思っています」

高野「私がプロデューサーとして心がけているのは、いろんな方の課題や障がいがある中で、『そういった方々はこうだろう』という決めつけをもたず、お客様に好きに音楽を聴いていただきたいということです。それぞれに楽しみ方をおもちのはずです」

――出演者はどんな方たちでしょうか?

高野「京都に縁のある方にお願いしたいというのがありました。濵野芳純さん(パイプオルガン)や石上真由子さんは京都出身です。森本英希さん(フルート)は京都市立芸術大学のご出身で、潮見裕章さん(テューバ)も京都で精力的に活動していらっしゃいます。齋藤綾乃さん(パーカッション)は緑さんのご推薦です」

田村「綾乃さんは中学の後輩にあたります。以前にコンサートでご一緒した時に、演奏の柔軟性とコメディエンヌのような明るさと笑顔がこの公演にぴったりだと思いました。みなさん芸達者で、『こうやったら面白いんじゃないかな』『こうやったらみんな楽しめるんじゃないか』というスピリットをもっている音楽仲間が集まっています」

左上より:濵野芳純/石上真由子 ©Takafumi Ueno/森本英希/潮見裕章/齋藤綾乃

――今回のコンサートのオーガナイズの工夫と、今後の展望を教えてください。

高野「座席を一部とりはずして車椅子席を増やします。ヒアリングループを利用できる席もあります。明かりはそれほど暗くせず閉塞感を覚えないようにし、扉はいつでも出入り自由なようにいくつか開けておきます。ロビーには、しんどくなられた方々がリラックスできるようなスペースを用意します。
 もちろん一般の方もご来場いただけます。『みんな一緒に同じ音楽を楽しむ』ということを体験していただきたいです。当日は、「Kyoto Music Caravan 2025」のスペシャルサポーターである洛和会音羽病院の看護師さんや、看護学校の学生さんがお手伝いに来てくれます。
 ホールは築30年目で、今ほど“アクセシビリティ”や“インクルーシブ”といった単語が浸透していない時代に建てられたので、今回のコンサートに向けてスタッフの体制などソフト面でサポートできるところなどを検証しました。できるかぎり万全の状態でお客様をお迎えしたいと思っています。こういった取り組みを今後も続けていく予定です」

※補聴器などを使用している難聴者の聞こえを支援する設備

――ホール初めての試みを、みんなでぜひ体験・共有したいですね。今後の取り組みにも期待しています。

取材・文:西田紘子


Kyoto Music Caravan 2025
ファイナルコンサート「みんなのやさしいコンサート」

2026.3/14(土)14:00 京都コンサートホール

♪出演
田村緑(お話・ピアノ)
濵野芳純(オルガン)
石上真由子(ヴァイオリン・京都コンサートホール第1期登録アーティスト)
森本英希(フルート)
潮見裕章(テューバ)
齋藤綾乃(パーカッション)

♪曲目
サン=サーンス(伊藤巧真編):ピアノとオルガンのための讃美歌~交響曲第3番「オルガン付き」第2楽章 第2部の主題による~
サン=サーンス(伊藤巧真編):「動物の謝肉祭」より
ピアソラ:リベルタンゴ(ヴァイオリン&ピアノ)
ムソルグスキー(松岡あさひ編):「展覧会の絵」より

問:京都コンサートホール075-711-3231
https://www.kyotoconcerthall.org