29年ぶりに鳴り響くアダムズの大作
「この人が振る“現代もの”なら絶対楽しめるはず!」という安心感が、最近の下野竜也には定着してきた。支持を得ている理由の一つに、独自の審美眼に基づく選曲力があることは間違いない。はやりの曲や作曲家を追いかけるのではなく、完成度は高いのに知名度がなく埋もれている曲、吹奏楽などで人気の出そうな作風などにうまくスポットを当てる。曲として面白いかどうかを最優先しているから、お客さんが「また聴きたい!」となるのである。
さて、読響10月定期のプログラムのメインは、ミニマリズムから出発しオペラでもヒットを連発する大家となったジョン・アダムズの「ハルモニーレーレ」だ。熟達した管弦楽の扱いによって、一定のパルスの上にめくるめくダイナミズムを開陳するこの大曲、開館直後のサントリーホールで日本初演されたが、それ以来の再演となる。
下野が読響と組んで名曲・珍曲を継続的に紹介してきたヒンデミットからは、ヴィオラ協奏曲「白鳥を焼く男」が演奏される。ヴィオラの名手でもあったヒンデミットだが、この曲ではヴィオラは吟遊詩人に見立てられ、各地の民謡(タイトルも民謡名から来ている)を披露する。独奏を務めるのは、読響の強力首席奏者陣の一角を担う鈴木康浩だ。
プログラム冒頭のベートーヴェン「コリオラン序曲」も、下野流のひねりか? ドイツ器楽音楽は、ナチに追われ新大陸へとわたったヒンデミットを通じ、アダムズ(ハルモニーレーレはドイツ語で“和声学”を意味する)に受け継がれた——そんな筋書きを妄想するもまたよかろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年9月号から)
第552回 定期演奏会
10/13(火)19:00 サントリーホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
http://yomikyo.or.jp