ベルリンで磨かれた音色を携えて——戸澤采紀が挑む渾身の初プログラム

©JUNICHIRO MATSUO

 Hakuju Hallの人気企画「リクライニング・コンサート」に、注目のヴァイオリニスト戸澤采紀が登場する。2016年日本音楽コンクールで最年少15歳で優勝。現在はベルリン・フィルのカラヤン・アカデミーで研鑽を積んでいる。

 カラヤン・アカデミーは、ベルリン・フィルのメンバーにレッスンを受ける2年課程の若手育成システム。一部の公演にも出演できるのだが、現実にはかなり頻繁に出番が巡ってくるのだそう。

 「先シーズンはほぼ毎週弾いていました。団員さんが『またいるね!』と驚くぐらい。これまでは第2ヴァイオリン、秋の新シーズンからは第1ヴァイオリンを弾いています。

 すごく良いプログラムばかり。私は“ベルリン・フィルといえばブラームス”みたいなイメージを持っているんですけれども、先週も交響曲第3番を弾いたり、去年もバレンボイムで第4番を弾かせていただいたり。良い体験をしているなと思います。今年の5月のヨーロッパ・ツアーでは、私が大好きなマーラーの交響曲第9番も、何度も弾かせてもらいました」

 12月のコンサートでは、ストラヴィンスキーの「イタリア組曲」、シベリウスの「6つのフモレスケ」(第1・2番)、グリーグのソナタ第3番を弾く。すべて初めて弾く作品だ。

 「グリーグがものすごく弾きたくて。これまでちょっと避けていたんです。自分の感情をオープンにしなければならない音楽なのですが、私はわりと頭の中で考えて音楽を作っていくタイプなので、そこは長年の課題でした。もちろん舞台で音楽を奏でることは非常に楽しいのですが、頭で考えたプランのほうに注力してしまうことが多いんですね。今ベルリン芸術大学でついているノラ・チャステイン先生も、もっと楽に弾いていいんだよと、励ますようなスタンスで教えてくださるし、ベルリン・フィルもめちゃめちゃオープンなオーケストラなので、このコンサートのコンセプトにもつながってくるんじゃないかなと思っています」

 ただ、「心をオープンにする」のは、簡単なことではないようだ。

 「お客さんがそれを受け入れてくれることを心から信じられなければ、怖くなってしまいますから。その第一歩を怖がらなくなって、最近はだんだん、いい意味で気負いすぎずに舞台に出られるようになってきたかなと思っています」

 大事なのは“信じる”こと。ならば私たちも、心地よいリクライニング・シートに身を委ねつつ、彼女を信じて、オープンな心で彼女の音楽を楽しみたい。

取材・文:宮本 明

(ぶらあぼ2025年12月号より)

第183回 リクライニング・コンサート
戸澤采紀(ヴァイオリン) & 望月 晶(ピアノ)
2025.12/17(水)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp