INTERVIEW エマニュエル・パユ――“キング・オブ・フルート”の妙技を味わえる、一日限りの公演が実現!

Emmanuel Pahud
フルート

さらなる高みへと向かう名手が真価をしめすスペシャル公演!

 ちょうどこの号が出るころ、ベルリン・フィルのツアーで来日中のエマニュエル・パユ。23歳で入団を果たした時分には、同オーケストラの定期演奏会でソリストをつとめた女声歌手に「ジェームズ・ディーンみたいな子がいるのよ!」と騒がれた彼も、今や五十代半ば。楽団でも古株だし、何より音楽界での存在感がひときわ増している。それを象徴するのが、デンマークのレオニー・ソニング音楽賞の2024年度受賞者に輝いたこと。60余年の実績を持つ権威ある賞で、歴代受賞者は壮観の一言だ。

 「2026年度は誰かといえば、キリル・ペトレンコですよ! これほどの人たちの列に加われたことは、まだ信じられない思いです。2024年5月にデンマークでこなしたのは、記念演奏会や室内楽や無伴奏リサイタル、そしてマスタークラスも含む、いわば“ミニ・フェスティバル”。音楽家としての自分の総体を集中的に示す機会は、今後の活動の指針にもなりました。賞金を後進世代のためにどう役立て、有意義なプロジェクトを組むか……。そんなことまで意識すべき年齢になったと実感します(笑)」

 去る7月には、パユの名を一躍有名にした神戸国際フルートコンクールをイベントの核とする“KOBE国際音楽祭2025”の初日に、彼の企画によるコンサートが開かれた。パユが吹く協奏曲だけが目玉のステージでは決してない。近年に開催された同コンクールで高位に入賞した2人の日本人奏者にパユ自身が声をかけ、それぞれ1曲演奏してもらう場まで設けられていた。若手音楽家を導く使命感と、斯界の活性化を願う純粋な熱意の反映だ。

 そんなパユのコンチェルトに耳を傾ける機会が、2026年3月にやってくる。それも横浜みなとみらいホールで一度だけ。ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団と、指揮者なしでの共演となる。

 「芸術監督のダニエル・ドッズがコンサートマスターに就任以来、彼らはレパートリーを意欲的に広げ、柔軟な演奏スタイルを獲得しています。前身となるのはルツェルン祝祭弦楽合奏団ですが、私はその創始者ルドルフ・バウムガルトナーの指揮でルツェルン音楽祭へデビューを果たしたのです。1989年の夏で、ヴィヴァルディの協奏曲を吹きました」

 演奏会の前半に登場するパユが、今回取り上げるのはブゾーニの「ディヴェルティメント」と、モーツァルトのフルート協奏曲第1番 ト長調 K.313。

 「ブゾーニは不思議と演奏の機会に恵まれませんが、魅力的な作品です。私はベルリンでバレンボイムの指揮を得て吹いたことがあるし、CDにも収めています。クラシカルな装いで始まったかと思えば、旋律的にも和声的にもモダンな要素が次第に忍び寄り、中間部はセレナード風な感傷性も帯びます。そして最後は技巧的な舞踏。管楽器セクションと交わす対話もスリリングです。指揮者を置かずにこの曲が演奏可能か、ドッズと綿密に打ち合わせを重ねました」

 そしてモーツァルトの第1番。パユが6歳でフルートを手にするきっかけをなした“運命の曲”だ。

 「ローマで暮らしていたときの隣人がフルーティストで、その息子さんがK.313を練習しているのを耳にして“あの楽器が欲しい、あの曲が吹きたい”と両親にせがんだのです(笑)。ブゾーニの『ディヴェルティメント』は冒頭と終結部が古典的なタッチで書かれており、モーツァルトへのつながりも無理がありません。そしてブゾーニの特徴をなす“器楽によるオペラ”的な筆致は、モーツァルトの世界ともうまく呼応する。この順序で接することにより、新たな発見を得ていただければ、とも期待します。

 そしてどちらの曲にも、ある種の祝典的な華やぎや、誇らしげな表情が備わっています。それがプログラムの後半の『英雄交響曲』と相乗効果を上げて、聴き応えのあるコンサートになると思いますよ!」

 ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団はパユとの共演の他、8都市で五嶋みどりをソリストに迎えて演奏会を開く。こちらも大いに期待できそうだ。

取材・文:木幡一誠
(ぶらあぼ2025年12月号より)

エマニュエル・パユ with ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団
2026.3/22(日)14:00 横浜みなとみらいホール


出演/ルツェルン・フェスティバル室内管弦楽団、ダニエル・ドッズ(リーダー)、エマニュエル・パユ(フルート)
曲目/ブゾーニ:フルートと管弦楽のためのディヴェルティメント op.52
   モーツァルト:フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313  
   ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調 op.55「英雄」

問:神奈川芸術協会045-453-5080 
https://kanagawa-geikyo.com

他公演(五嶋みどり出演)
2026.3/13(金) レクザムホール(香川県県民ホール)(087-823-5023)
3/14(土) キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)(テレビ信州チケットセンター026-225-0055)
3/15(日) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(CBCテレビ事業部052-241-8118) 
3/17(火) 高崎芸術劇場(027-321-3900)
3/18(水) サントリーホール【完売】 
3/20(金・祝) 大阪/ザ・シンフォニーホール(06-6453-2333)
3/21(土) 所沢市民文化センター ミューズ アークホール(04-2998-7777)
3/23(月) 札幌コンサートホール Kitara(TVhテレビ北海道011-351-7277)