10月30日、東京文化会館にて「東京・春・音楽祭2026」の概要発表会見が行われ、鈴木幸一(同音楽祭実行委員長)、芦田尚子(事務局長)、野平一郎(東京文化会館 音楽監督)らが登壇。さらに、同音楽祭と縁の深いピアニスト、ルドルフ・ブッフビンダーがオンラインで出席した。

オペラ、オーケストラ、室内楽など幅広いコンサートを多数開催し、桜咲く季節の上野を彩る風物詩として親しまれている東京春祭。来年は3月13日から4月19日まで、約40日間にわたり開催される。同音楽祭では、20年を超える歴史の中で、リッカルド・ムーティをはじめ多くの世界的な音楽家が常連となってきたが、そのうちの一人・ブッフビンダーの弾き振りによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会(全2公演)が次回の目玉の一つとなる。管弦楽は東京春祭オーケストラ。ムーティが格別の信頼を寄せる楽団であると知り、「自分もぜひ一緒に演奏してみたい」と希望してのことだという。
ブッフビンダー「昨年から2年続けて、東京文化会館の小ホールで演奏させていただきましたが、本当に優れた音響で、会場全体がファミリーになったかのような一体感を感じました。大ホールも、昔サヴァリッシュが指揮するウィーン交響楽団とモーツァルトの協奏曲を弾いた際の素晴らしい思い出がありますので、来年のベートーヴェンも非常に楽しみにしています」

同じくおなじみの巨匠、音楽祭の代名詞「ワーグナー・シリーズ」で過去8回にわたりタクトをふるったマレク・ヤノフスキは、自らリクエストを出したというシェーンベルク「グレの歌」を指揮。カミラ・ニールンドを筆頭に、世界の檜舞台で活躍する歌手をソリストに迎え、来年100周年のNHK交響楽団、そして東京オペラシンガーズとともに屈指の大作に臨む。一方「ワーグナー・シリーズ」は、今年のセイジ・オザワ 松本フェスティバルへの登場も記憶に新しいアレクサンダー・ソディがN響との《さまえるオランダ人》で新たな息吹を吹き込む。オペラ公演もう一つの柱「プッチーニ・シリーズ」では、同シリーズでの過去2回の快演で好評を博したピエール・ジョルジョ・モランディが読売日本交響楽団とともに《マノン・レスコー》を演奏する。
小ホールの公演も充実の内容。トレヴァー・ピノックは昨年に引き続き、首席指揮者を務める紀尾井ホール室内管弦楽団との公演を行うほか、チェンバロ奏者としてジョナサン・マンソン(チェロ)、エマニュエル・パユ(フルート)とのトリオ公演も予定。また、音楽ファンから熱視線を集める新星 マリア・ドゥエニャス(ヴァイオリン)がアレクサンダー・マロフェーエフ(ピアノ)とともに日本での初リサイタルを開催するのも注目だ。この他、シューベルトの名曲を携え待望の来日を果たすアンドレ・シュエン(バリトン)をはじめ、個性際立つアーティストたちが各々の持ち味を生かしたプログラムを届ける。上野の各美術館・博物館を会場とする「ミュージアム・コンサート」、幅広い年代の子どもに向けたプログラムを提供する「東京春祭 for Kids」などの恒例の企画も継続。
来年5月より改修のため約3年間の長期休館に入る東京文化会館。2005年に「東京のオペラの森」としてスタートして以来、同会館を主会場としてきた東京春祭では、長年の感謝の思いを込めて、堀正文、長原幸太ら縁の深いメンバーによる室内楽ガラ・コンサート(全2公演)を予定している。
野平「オペラ、歌曲、オーケストラ、室内楽……と、東京・春・音楽祭ほど様々なところに目の向いた音楽祭は他にないと思っています。特に、アンサンブル・アンテルコンタンポランが3年連続の来日を果たし、『今日の作曲家がどんなことを考えているのか』というところを最高の質の演奏でお客様に聴いていただけることは、一作曲家として非常に嬉しい思いです。残念ながら来年が終わるとしばらくの間、会場として使用していただけなくなりますが、再開した折にはぜひ東京文化会館で、この音楽祭が誇る多彩なプログラムを再び展開していただけたら、と心から願っています」

東京文化会館の休館中は、上野の各施設での公演を継続しつつ、都内の各ホールに会場を移してできる限りボリュームを減らさない形での実施を模索しているという。実行委員長の鈴木は、かつてムーティから受けた“音楽祭は続けることが何よりも重要。生きている限りやめては駄目だ”という言葉を引き合いに出しながら、「休館は非常に寂しいことではありますが、皆さまのご支援のもとに何とか継続していきたい」と今後の意欲をしめした。

転換の局面を前にしながらも、変わらず彩り豊かな公演を届ける東京・春・音楽祭。春の訪れとともに上野のまちが音楽に満ちるその時を、楽しみに待ちたい。
文・写真:編集部
東京・春・音楽祭2026
2026.3/13(金)〜4/19(日) 東京文化会館 他
2025.11/8(土)より順次先行発売
https://www.tokyo-harusai.com
