日本のマーラー演奏史で語り継がれる、井上道義と新日本フィルによって行われた1999年から翌年にかけての交響曲ツィクルス。そのなかから交響曲第7番のライブ録音が25年の歳月を経て初めてリリースされた。壮年期の井上の指揮にオーケストラが俊敏に反応した、表現や強弱の振幅が大きい演奏だ。第3楽章での弦楽器の表情の切り替えを耳にすると、いかにアーティキュレーションを念入りに凝らしているかがわかるはず。終楽章はむやみに大騒ぎすることなく、細やかに音楽の筋道を作り、鐘の音も鮮やかに、壮麗なフィナーレを導き出した。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年11月号より)
【information】
SACD『マーラー:交響曲第7番/井上道義&新日本フィル』
マーラー:交響曲第7番「夜の歌」
井上道義(指揮)
新日本フィルハーモニー交響楽団
収録:2000年4月、すみだトリフォニーホール(ライブ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00885 ¥3850(税込)

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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