飯森範親×パシフィックフィル
ブーレーズ生誕100年に捧げた藤倉大の新作を日本初演

左:飯森範親 ©山岸 伸
右:佐藤晴真 ©Seiichi Saito

 パシフィックフィルハーモニア東京の第177回定期演奏会は音楽監督の飯森範親が指揮、フランス近代の大家であるカミーユ・サン=サーンスの代表作と後継世代のピエール・ブーレーズの生誕100年に献呈した藤倉大の日本初演作品を組み合わせる。

 サン=サーンスの1曲目はチェロ協奏曲第1番イ短調。1872年にパリ音楽院チェロ科教授オーギュスト・トルベックのために作曲され、3つの楽章が切れ目なく続く。ソロを担うのは2019年ミュンヘン国際音楽コンクール・チェロ部門で第1位を得た佐藤晴真。楽曲の内側に深く沈潜し高い密度で歌わせる持ち味を存分に発揮できそうだ。

 もう1曲は「オルガン付き」の副題を持つ交響曲第3番ハ短調。ベートーヴェンの「運命」交響曲と同じ調性だが深刻さはなく、パイプオルガンの壮麗な音響と色彩豊かな管弦楽の饗宴を感覚的にも楽しめる。2部構成だが、それぞれが2つの部分を持ち、実質的には古典の4楽章交響曲と同じ効果を発揮するという凝った作りになっている。

 藤倉の「『Ritual』〜室内オーケストラとエレクトロニクスのための」はピエール・ブーレーズ財団の助成を得てルツェルン音楽祭とIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)、香港シンフォニエッタが共同で委嘱した新作。イタリアの作曲家ブルーノ・マデルナが亡くなった際にブーレーズが作曲した作品と同じ題名を用いながら、「ゴングと禅の瞑想の要素が加わった非常に日本的な作品」として、2025年のブーレーズ生誕100年に藤倉が捧げた新作だ。

文:池田卓夫

(ぶらあぼ2025年11月号より)

飯森範親(指揮) パシフィックフィルハーモニア東京 第177回 定期演奏会 
2025.11/14(金)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:パシフィックフィルハーモニア東京チケットデスク03-6206-7356 
https://ppt.or.jp


池田卓夫 Takuo Ikeda(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)

1988年、日本経済新聞社フランクフルト支局長として、ベルリンの壁崩壊からドイツ統一までを現地より報道。1993年以降は文化部にて音楽担当の編集委員を長く務める。2018年に退職後、フリーランスの音楽ジャーナリストとして活動を開始。『音楽の友』『モーストリー・クラシック』等に記事や批評を執筆する他、演奏会プログラムやCD解説も手掛ける。コンサートやCDのプロデュース、司会・通訳、東京音楽コンクール、大阪国際音楽コンクールなどの審査員も務める。著書に『天国からの演奏家たち』(青林堂)がある。
https://www.iketakuhonpo.com