フランス音楽、とくにドビュッシー演奏のエキスパート。一方は、現代音楽をリードし続けたサティ演奏の先駆者。この2人が奏でるサティが面白からぬはずがない。アルバム前半は独奏曲。青柳いづみこが、陰影も豊かに「3つのグノシエンヌ」を滑らかに奏でれば、ぶっきらぼうな調子で「冷たい小品」を淡々と弾く高橋悠治。こんなスタイルが異なる2人の連弾作品は最高だ。とりわけ「梨の形をした3つの小品」の端々から匂ってくる不穏な詩情がたまらない。「風変わりな美女」では、奔放な高橋を青柳がしっかりフォローしつつ、もっとやれと背中を押しているよう。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年11月号より)
【information】
CD『逃げ出させる歌 ピアノ独奏と連弾によるエリック・サティ選集/青柳いづみこ&高橋悠治』
サティ:3つのグノシエンヌ、冷たい小品、メドゥーサの罠、官僚的なソナチネ、梨の形をした3つの小品、不愉快な概要、3つの組み立てられた小品、風変わりな美女 他
青柳いづみこ 高橋悠治(以上ピアノ)
コジマ録音
ALM-7308 ¥3300(税込)

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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