スティーヴン・イッサーリスが語る“Japanese Father”堤剛との初共演──横坂源、上野通明とのチェロ・アンサンブルが実現

©Tom Miller

 室内楽は多くの場合、音域や構造の異なる複数の楽器を組み合わせて構成される。ところがチェロは、それだけでアンサンブルをつくることが珍しくない楽器である。音域が広く、さまざまな響きを出せるので、複数のチェロだけでも多彩で変化に富んだ演奏が可能だからだ。

 10月16日に東京の浜離宮朝日ホールで行われる「CELLO LEGENDS & RISING STARS」は、巨匠2人と気鋭2人、世代の異なる名チェリスト4人のアンサンブルによるコンサートだ。その魅力と聴きどころを、イギリスから参加するスティーヴン・イッサーリスに語ってもらった。

 「この企画案をきいて、堤さんへのトリビュートとなるコンサートにできればと思い、喜んで参加を決めました。人間的にも音楽的にも、ほんとうに素晴らしい方ですから」

 堤との出会いは1980年代の末、カナダの音楽祭で、堤がひくエルガーのチェロ協奏曲を聴いたときだった。

 「とても美しい演奏でした。それに加えて、堤さんの容貌が私の父親にそっくりだったので、びっくりしました。国も年齢も違うのに(笑)。それ以来、『My Japanese Father』と呼んで、親しくさせてもらっています。お互いの演奏は何度も聴いていますが、共演は初めてなので楽しみです」

 若い横坂源と上野通明についても、いま日本から優れたチェリストが何人も登場している時期だけに、期待しているという。

 「また、上野さんが日本音楽財団から貸与されているストラディヴァリウスのチェロ『フォイアマン』は、かつて自分も9年間ひいた楽器なので、再会できることが嬉しいです」

 当日の曲目は1挺から4挺、さらには沼沢淑音のピアノを加えた五重奏まで、編成も曲想もバラエティに富む。

 「ゆっくり美しい曲ばかりだと単調なので、変化がつくように私が考えました。堤さんがひくバッハの無伴奏組曲第1番に始まり、ボッケリーニの2つのチェロのためのソナタに続きます。ボッケリーニは過小評価されていますが、私は大好きで、『チェロの王様』だと思っています。ソッリマの『野生の樹木園』は私自身は演奏しませんが、きっとエキサイティングな曲だと思います。ピアッティはとても甘美な曲で、次に再びボッケリーニのソナタ。続いて、親友のオッリ・ムストネンに委嘱した曲を演奏します」

 フィンランドの指揮者、ピアニストのムストネンは優れた作曲家でもあり、今回の曲とは別の新作もイッサーリスのために書いているという。

 「それからポッパーの『レクイエム』。ポッパーはエチュードばかりが有名ですが、とてもチャーミングで有能な作曲家です。おしまいは、シューベルトが四部合唱とピアノのために書いた『自然の中の神』。私が10歳からチェロを学んだジェーン・コワンが編曲したもので、私の最愛の曲の一つです」

 「堤さんへのトリビュートと同時に、若者たちを祝福するパーティのようにしたい」と語るイッサーリス。楽しく、素晴らしいコンサートになりそうだ。

取材・文:山崎浩太郎

(ぶらあぼ2025年9月号より)

CELLO LEGENDS & RISING STARS 
堤 剛×スティーヴン・イッサーリス×横坂 源×上野通明
2025.10/16(木)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/

他公演
2025.10/17(金) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
10/18(土) 北九州市立響ホール(093-663-6567)


山崎浩太郎 Kotaro Yamazaki

1963年東京生まれ。演奏家の活動と録音をその生涯や同時代の社会状況において捉えなおし、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。著書は『演奏史譚1954/55』『クラシック・ヒストリカル108』(以上アルファベータ)、片山杜秀さんとの『平成音楽史』(アルテスパブリッシング)ほか。
Facebookページ https://www.facebook.com/hambleauftakt/


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