
ケント・ナガノが読響の指揮台へ初登場。常設の在京プロ・オーケストラを指揮するのも39年ぶりという。ハンブルク州立歌劇場の音楽総監督を退任したばかりの日系アメリカ人指揮者が、日本との新たな関係を築く第一歩となるかもしれない演奏会だ。
一曲目の野平一郎の「織られた時IV〜横浜モデルニテ」は世界初演となる。現代曲に魅せられて指揮者の道へ進んだナガノだが、野平のオペラを指揮した経験もあり、作曲家とは懇意の仲だとか。連作シリーズの第4弾となるこの作品は、初演の地となる横浜がテーマ。作曲家によれば、その音楽的素材や発想の背後には船の汽笛が聴こえるという。
続く、モーツァルトのピアノ協奏曲第24番では、ベネデット・ルポが登場。情熱を交えつつ心地よくピアノを歌わせるイタリアのピアニストが、ハ短調のモーツァルト作品の詩情をしっとりと奏でてくれるだろう。
後半は、シューベルトの交響曲第8番「グレイト」だ。ケント・ナガノは、最近リリースされたハンブルク州立歌劇場管とのブラームス録音でも、声部をまろやかに溶け合わせ、たっぷりと和音を響かせる重厚な演奏を聴かせていた。読響との共演でも、豊饒にして風格のあるシューベルトを期待したいところだ。
読響の横浜マチネーシリーズは、サントリーホールでの名曲シリーズと同一プログラムを組むことが多いが、この演奏会は横浜みなとみらいホールでの一回公演のみ。聴き逃せない。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2025年9月号より)
ケント・ナガノ(指揮) 読売日本交響楽団
第144回 横浜マチネーシリーズ
2025.9/21(日)14:00 横浜みなとみらいホール
問:読響チケットセンター0570-00-4390
https://yomikyo.or.jp

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
https://bsky.app/profile/suzukiatsufmi.bsky.social


