笹沼樹(チェロ)・上田晴子(ピアノ)が初のデュオCD『夜と光の出会うところ』を語る

左:笹沼 樹 右:上田晴子 ©Yutaka Yamamoto

 新譜のタイトルにまず魅き込まれる。『夜と光の出会うところ』というのがそれで、演奏者はパリ国立高等音楽院で教鞭をとるピアニスト 上田晴子と実力派若手チェリスト 笹沼樹のふたり。世代はちょっと離れているが、どちらも日本の音楽界にとって、今や欠かせない存在である。彼らの出会いから語ってもらった。

上田「室内楽コンサートの初リハーサルで『もしかしたら相性いいのかも』とピンと来て、何となく気になって、少し話せたらいいなと思いながら帰り支度をしていたら、彼も待っていてくれて、駅までの5分の道で『試しに一緒に弾いてみようか』となりました」

 2022年9月にHakuju Hallで開催された「DUOリサイタル」では、今回の録音とほぼ同じプロコフィエフやR.シュトラウスのチェロ・ソナタを含むプログラムを演奏した。そのリサイタルは継続しており、今年も第3回が7月9日に行われた。

上田「まずプロコフィエフとR.シュトラウスを取り上げたのは、私が長年にわたって共演してきたジャン=ジャック・カントロフとの初めてのセッション録音が、このふたりの作曲家であったということに起因しています。今回も新しく共同作業を始めるにあたって、私はここからスタートしたかったのです」

笹沼「リサイタルの時にはブラームスの歌曲のチェロ編曲版も入れていたのですが、歌う楽器としてのチェロの魅力を引き出しながら、ひとつの時代性も感じさせるような作品群を選びたかったので、今回のような選曲になりました」

 そこにはグラズノフ「吟遊詩人の歌」やラフマニノフ「サロンの小品」といった珍しい作品も並ぶ。この「サロンの小品」だが、もとはヴァイオリン用の楽曲であり、それをふたりで編曲したという。

笹沼「『ロマンス』と『ハンガリー舞曲』という2つの小品で構成されています。ヴァイオリン用の作品をチェロで演奏するのはなかなか難しいわけですが、もう1曲収録されたラフマニノフの『ロマンス』(こちらは『リート』とも呼ばれる)とのつながりも意識しながら選曲しました」

 いずれも録音の機会が少なく、たいへん貴重な記録だ。

 そして中心となるR.シュトラウスとプロコフィエフのチェロ・ソナタは、まさにこのデュオでなければ作り出せない、考え抜かれた上でのフレッシュさと発見に満ちた演奏となっている。アルバム・タイトルの意味は、その演奏の中に隠されている。

取材・文:片桐卓也

(ぶらあぼ2025年9月号より)

CD『夜と光の出会うところ』
コジマ録音
ALM-7311
¥3300(税込)


片桐卓也 Takuya Katagiri

1956年8月、福島県生まれ。早稲田大学在学中からフリーランスとして仕事を始め、映画、旅、自動車などの雑誌に関わる。1990年ごろから本格的にクラシック音楽関係の取材を始め、音楽雑誌に寄稿している。他に、コンサートの曲目解説、録音のライナーノーツの執筆なども多数。余裕があれば、バロック期のオペラを聴きにヨーロッパへ出かけている。趣味は都会の廃墟探訪。


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