柴田俊幸とアンソニー・ロマニウク。この2人のディスクというだけで心が躍る。共演の度に、バロックから現代まで縦横に行き来する2人の発想と即興力に「古楽とはかくも自由になれるのか」と驚かされるからだ。果たして本盤もバッハ親子の作品集でありながら、内容は一筋縄も二筋縄もいかない。柴田の即興で始まる冒頭に度肝を抜かれるし、ロマニウクはチェンバロとフォルテピアノ双方を駆使し当意即妙の相方となる。楽章後半が欠落したBWV1032の第1楽章のロマニウク補筆、ロマニウク作の前奏曲、「シチリアーノ」はなんとケンプ編曲版等々、最後まで仕掛け満載!自由な精神が時空を超える。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年8月号より)
【information】
CD『バッハとその息子たちによるフルート・ソナタ集/柴田俊幸&アンソニー・ロマニウク』
C.P.E.バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタ「ハンブルガー・ソナタ」/J.S.バッハ:フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ BWV1031より「シチリアーノ」(ヴィルヘルム・ケンプ編)、フルートと通奏低音のためのソナタ BWV1032/アンソニー・ロマニウク:前奏曲 他
柴田俊幸(フラウト・トラヴェルソ)
アンソニー・ロマニウク(チェンバロ/フォルテピアノ)
Channel Classics/ナクソス・ジャパン
NYCX-10540 ¥3300(税込)

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。



