全国共同制作プロジェクト モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》〜庭師は見た!〜新演出
野田流“ワークショップ”とは?
井上「野田さんがオペラをつくり上げるやり方はワークショップと言って、僕が経験したことのないものだけど、歌い手や役者がどんどんアイディアを出して、野田さんが出したアイディアもみんなで考える。時間はかかるけれど、いろんなアイディアが出てくるようなやり方で進んでいて面白いです」
野田「ワークショップ、どのくらいやっているのかな。ものすごい回数やっています。僕は多摩美術大学で授業を受け持っているんだけど、そこでも昨年はかなりフィガロを題材にしました。1年間いろいろなアイディアを試したので、演出の中に学生とのワークショップから出たアイディアも入っています。やっているうちにどんどん面白くなっていったし、これまで《フィガロの結婚》を海外で観てきたけれど、実際は話をよくわかっていなかったんだということもよくわかりました。今回は様々なホールで公演するので、オペラらしい壮大な仕掛けを使うのではなくシンプルな舞台にすることもいい挑戦ですね。自分が楽しんでやっているんで、今のところは面白くなるのではないかなと思っています」
井上「僕は野田さんの演出で成功するだけじゃなくて、音楽的に成功したい。だから野田さんの案に対して遠慮なく、嫌がられるかもしれないけど、実は嫌がってないんだろうけど、反論や代案もどんどん出してる」
黒船時代の長崎が舞台
野田「きっかけになったのは、僕が以前から日本で上演するオペラで日本人と西洋人が当然のようにイタリア語で歌うことに違和感を持っていて、それを不思議と思わせない状況にしたいというところからです。そのために日本語を取り入れたんです。明治になって開国した長崎にやって来た伯爵と伯爵夫人、そのお小姓のケルビーノの三人は外国人で、残りの登場人物は使用人で日本人。屋敷で伯爵が日本人である女中のスザンナに手を出そうとしている状況から始まる。開国の時代はいわば、頼みもしないのに西洋が日本にポンとやってきて強引に開国させたわけですから、西洋が日本などのアジアを開かせたと言える。伯爵がスザンナに手を付けようとするのも初夜権の話ですから、重なる部分があるのではないか。その辺から《フィガロの結婚》をこじ開けられないかと考えたのが始まりです」
井上「この設定は読み替えにあたるけど、ボーマルシェの世界やモーツァルトがやりたかったことをちゃんと知って尊重し、それを今の日本でわかる方向にうまく読み替える。下手に読み替えてモーツァルトの時代なのに革ジャン着て出てくるとか、そういうことはやりたくないから。野田さんの設定は、オペラという西洋のアートを日本でどのように受容するかということそのものがオペラになっているという二重構造とも言えるんじゃないかな。作品にとても正直に切り込んでいるけれど、それが成功するかどうかは、やってみないとわからない」
物語の結末やいかに?
井上「僕は喜劇で終わらせてほしいと言ってる」
野田「フィガロとスザンナの恋愛はお互いに勘違いするだけだから喜劇だけど、伯爵と伯爵夫人の関係は、やっぱり喜劇じゃないんじゃないかな。《フィガロの結婚》は突然最後に「許しましょう」と歌って「許しましたー」で終わるけど、そこで終わるのかっていう気持ちがどうしても残って、ドキドキしちゃうんですね。もちろんオペラというのはそういうものだと言えば、それで終われるんだろうけど。ただ自己満足に終わる変なことはしたくないので、自分の中でせめぎ合っています」
井上「《ドン・ジョヴァンニ》は悲劇で終わるんだよね。地獄に落ちた後みんな出てきて、あいつは死んで良かったみたいな話で終わる。それと似たようなことをちょっと感じてると思うんだ」
野田「結末は私の中では決まっているけれど、それを井上さんにも納得してもらって、観る人聴く人が納得できるような形になったら提示しようと思っています。最終的にどうなるかは幕が上がってからのお楽しみですね」
構成・文: 潮 博恵 写真: Hikaru.☆
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年6月号から)
■全国共同制作プロジェクト
モーツァルト/《フィガロの結婚》〜庭師は見た!〜 新演出
(全4幕(休憩1回)・字幕付 原語&一部日本語上演)
●スタッフ
指揮・総監督:井上道義
演出:野田秀樹
美術:堀尾幸男(HORIO工房)
衣裳:ひびのこづえ
●主なキャスト
アルマヴィーヴァ伯爵:ナターレ・デ・カロリス
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:テオドラ・ゲオルギュー
フィガ郎(フィガロ):大山大輔
スザ女(スザンナ):小林沙羅
ケルビーノ:マルテン・エンゲルチェズ
庭師アントニ男(アントニオ):廣川三憲
バルト郎(ドン・バルトロ):森雅史(前期)、妻屋秀和(後期)
●管弦楽
オーケストラ・アンサンブル金沢(5/26,5/30,5/31)、兵庫芸術文化センター管弦楽団(6/6,6/7,6/10)、東京交響楽団(6/17)、読売日本交響楽団(10/24,10/25)、山形交響楽団(10/29,11/1)、九州交響楽団(11/8,11/14)
●合唱
新国立劇場合唱団(6/6,6/7,6/10,6/17,10/24,10/25)、金沢フィガロ・クワイアー(5/26)ほか
●公演日程
〈春期〉
5/26(火) 金沢歌劇座
問 金沢芸術創造財団076-223-9898
5/30(土)、31(日) フェスティバルホール
問 医療法人友紘会072-621-9798(5/30)、フェスティバルホール06-6231-2221(5/31)
6/6(土)、7(日) 兵庫県立芸術文化センター
問 芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
6/10(水) サンポートホール高松
問 サンポートホール高松087-825-5010
6/17(水) ミューザ川崎シンフォニーホール
問 ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
〈秋期〉
10/24(土)、25(日) 東京芸術劇場コンサートホール
問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 (発売中)
10/29(木) 山形テルサ
問 山形テルサ023-646-6677 (6/13発売)
11/1(日) 名取市文化会館
問 名取市文化会館022-384-8900 (6/13発売)
11/8(日) メディキット県民文化センター
問 メディキット県民文化センター0985-28-3208 (6/13発売)
11/14(土) 熊本県立劇場
問 熊本県立劇場096-363-2233 (7/18発売)
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