佐藤俊介とスーアン・チャイ、ピリオド楽器による全集。夫婦でもある二人が初対面で演奏したのが「クロイツェル」。本盤でも求心性の高い優れた演奏。特徴的なのは、第1主題提示直後のフェルマータで、即興的な挿入楽句を加える。他の曲でもそうだが、反復の際には常に変化をつけ、面白く、彩を加味する。ハ短調の第7番のパトスも凄まじい。両者の火花を散らすせめぎ合いは息を呑むほど。第5番「春」も単に美しいだけでなく、速度の対比やリズムの切れ味に新鮮な驚きがある。第10番は後期様式に近づいた、ひょうひょうとした透明な音楽を聴かせる。どの曲も新しい発見があり、楽しめる。とても面白い。
文:横原千史
(ぶらあぼ2024年12月号より)
【information】
CD『BEE1H0VEN ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ全集/佐藤俊介&スーアン・チャイ』
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第10番
佐藤俊介(ヴァイオリン)
スーアン・チャイ(フォルテピアノ)
Cobra Records/東京エムプラス
COBRA 0094S(3枚組) ¥5600(税込)