深作健太演出《さまよえるオランダ人》ほか5演目上演〜東京二期会が2025/26シーズンラインナップを発表

 東京二期会が10月17日、2025/26シーズンラインナップを発表した。東京文化会館で行われた会見には、大野徹也・理事、山口毅・常務理事兼事務局長のほか、《さまよえるオランダ人》で演出を手掛ける映画監督・深作健太、ゼンタ役のソプラノ・中江万柚子が登壇した。

左より:山口毅、深作健太、中江万柚子、大野徹也

 大野理事が「世界でも有数のオペラ都市・東京において、その価値に相応しい豊かなオペラ体験をご提供していきたい」と語るように、新制作2演目と、好評を博した再演ものなど、バラエティに富んだ5演目が並ぶ。

 注目はなんといっても開幕をかざる深作健太演出によるワーグナーの《さまよえるオランダ人》(ワールドプレミエ)。東京二期会としては2005年(渡辺和子演出)以来の上演となる。深作は東京二期会とこれまでに、オペラ演出デビューとなった《ダナエの愛》(2015年)以後、《ローエングリン》《フィデリオ》を手掛けてきた。

「オペラ演出デビューから10年。まだまだ外の世界からきた新人のつもりでいましたが、新人のふりもできなくなってきて、先輩たちにいただいた恩を次の世代にどう返していくかを考えています。僕自身がそうだったように、これからオペラを聴く方たち、初めて観る方にとってはっきり記憶に残るワーグナー作品を、日本人スタッフとともに、日本から新たに発信するオペラ作品として手掛けたいです」

深作健太

 以前よりワーグナー好きと公言する深作だが、「オペラ演出を志したきっかけの作曲家」であり、「ワーグナーなくしてジョン・ウィリアムズもハンス・ジマーもいなかった」と、映画音楽にワーグナーの音楽技法が生き続けていると強く語る。そして、オペラへの想いも熱い。

「ハリー・クプファーさん演出の《ニーベルングの指輪》に一目惚れし、その衝撃でいつかこの世界にと、一ファンとなりました。時代が変わり、いまはドイツの読み替え演出に対する風当たりも強いです。ただ、そこでいただいた衝撃を大切に、決してオペラをクラシック、古典として捉えるのではなく、常に命をいただき与え続け、また生まれ変わり続けていくものなのです。それがこのジャンルの素晴らしいところだと思います。
 いま、勝手に師匠だと思っている(まもなく開幕する東京二期会《影のない女》演出の)コンヴィチュニーさんの発言に風当たりがあるようですが、死んだオペラを愛しているのではなく、命を与えていただき、たえずこの世界を創っています。マエストロ、演奏家たちがその時代にあわせて息を吹き込み、聴衆のみなさんが聴いてインスピレーションを次の代に伝え続ける。記録芸術ではないライブ芸術であるオペラは生き続けているのだと、その想いを映画とは別の、生の表現として創っていきたい、というのがオペラの現場に立たせていただくときの意気込みです」

 現時点で描く演出コンセプトは、「100年以上も前に描かれたワーグナー作品をいまどう聴くか、どう聞こえるか」。

「《オランダ人》は永遠の生と死、時間というものを非常に考えさせられる作品です。上岡敏之マエストロとは、いま徹底的にスコアを読み込む作業を行っています。あたかもモーツァルトを聴いているような感覚で、やわらかい部分をマエストロが拾われているので、今回の演出は譜読みに従って創っていく部分が多いのではと感じています。マエストロとは新しい関係が築けているのが嬉しいです。そして上岡さんが見出した(中江)万柚子さんです。歌手、指揮者、演出家の三角関係で創っていく表現ができそうな気がしています」

中江万柚子

 ゼンタ役で出演する中江は、二期会オペラ研修所マスタークラス特待生で入所し、首席修了。今年11月には、やまぎん県民ホールにて上演される《コジ・ファン・トゥッテ》フィオルディリージ役で二期会デビューを果たす期待のソプラノだ。

「幼少期から舞台に立つ人になりたいと夢を描き続けてきました。美しいオーケストラと声のハーモニー、それを通してキャラクターの心情、情景を表現するオペラの世界観、声という楽器の力に魅了されて、舞台に立ちたいというふんわりとした夢が、オペラ歌手になるという明確な目標となりました。昨年、研修所を修了しばかりで学ぶべきことも山積み。今後は、皆さんに声を通して表現を聴いていただき、感動してもらえるような歌手になりたいです。
 ゼンタ役は、昨年末にオーディションに通過したと聞き、ワーグナーのヒロインを任せていただけるのだと身の引き締まる思いです。ゼンタはまわりからみると夢見がちで、空想好き、どこか浮き世離れしているイメージですが、誰になんと言われようとオランダ人への愛を貫く一途さ、心のままに行動を起こす推進力が魅力的なキャラクターです。とにかく嘘や裏表のないまっすぐな性格なので、観ている方にも感情がストレートに伝わるよう、時間をかけて丁寧に、心情を積み上げていき、私らしいゼンタをお届けしたいです」

 深作と中江は、東京文化会館を中心に開催されるオペラの祭典「Tokyo Opera Days 2024」(2024.10/18〜10/27)で、《オランダ人》に先駆けたプレイベントとして「深作健太トーク&コンサート」(10/20)でも共演する。

 山口事務局長からの各演目のコメントは以下のとおり。

【2025/26シーズンラインナップ】

●2025年
[9月]ワーグナー《さまよえるオランダ人》 (ワールドプレミエ)

《東京二期会オペラ劇場》
指揮:上岡敏之 演出:深作健太
管弦楽:読売日本交響楽団
会場:東京文化会館

23年12月にモーツァルトのレクイエムで初共演した「上岡敏之 × 東京二期会プロジェクト」の第2弾で、3年目となる「Tokyo Opera Days 2025」(2025.9/5〜9/15)のメインイベントとして上演。
ヴィースバーデン、ザールランド、ヴッパータールと名門歌劇場で音楽監督を歴任してきた上岡が得意とするワーグナーを日本で初めて指揮する。上岡は映画プロデューサーの経歴をもつ父の影響もあり、深作との打ち合わせは映画の話題でも花が咲き、すでに良きコンビで準備が進んでいる。
会見では中江万柚子のゼンタ役にあわせて、オランダ人役に斉木健詞が主演することも発表された。

[11月]J.シュトラウスII世《こうもり》
〈東京二期会オペラ劇場〉ベルリン・コーミッシェ・オーパーとの提携公演
NISSAY OPERA 2025提携
指揮:エリアス・グランディ 演出:アンドレアス・ホモキ
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
会場:日生劇場

2017年11月にプレミエを迎えたプロダクションの再演。
指揮は25年4月に札響の首席指揮者に就任するエリアス・グランディ。ハイデルベルク歌劇場音楽監督を長年務め、フランクフルト歌劇場ほか世界の名だたる劇場でタクトを執る今をときめく指揮者。ドイツ人と日本人の両親をもつため、歌はドイツ語、セリフは日本語という今回のプロダクションにぴったりな人選。東京二期会とは札幌文化芸術劇場 hitaruとの共同制作で2020年1月に上演された《カルメン》で初共演、今回が東京でのオペラデビューとなる。

[12月]ベルリオーズ《ファウストの劫罰》 4部からなる劇的物語
〈東京二期会コンチェルタンテ・シリーズ〉
指揮:マキシム・パスカル
管弦楽:読売日本交響楽団
会場:東京(後日発表)

指揮のマキシム・パスカルは、現在スウェーデンのヘルシンボリ交響楽団の首席指揮者。東京二期会とは、2019年《金閣寺》で衝撃のデビューを飾り、その後も《サムソンとデリラ》《ルル》、そして25年7月に《イオランタ/くるみ割り人形》(ロッテ・デ・ベア演出)と共演を重ねる。25年2度目の登場で、得意のフランス音楽、ベルリオーズを取り上げる。

●2026年
[2月]マスカーニ《カヴァレリア・ルスティカーナ》/レオンカヴァッロ《道化師》(新制作)

〈東京二期会オペラ劇場〉ロイヤル・オペラ・ハウスとの提携公演
指揮:アンドレア・バッティストーニ 演出:ダミアーノ・ミキエレット
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
会場:東京(後日発表)

ロイヤル・オペラ・ハウスとの初の提携。26年5月から改修工事に入る東京文化会館での、東京二期会として休館前の最後の公演。指揮は二期会でもおなじみバッティストーニが、手兵・東京フィルとピットに入る。演出のミキエレットと、イタリアの若き二人の天才による初のコラボレーション。

[4月]ベルク《ルル》
〈東京二期会オペラ劇場〉
指揮:オスカー・ヨッケル 演出:カロリーネ・グルーバー
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
会場:(後日発表)

コロナ禍の2021年に新制作上演され評判だったプロダクションの、今回はディスタンスなど演出的制限をとったノーマル版上演。指揮は1995年ドイツ生まれのオスカー・ヨッケルが初来日、日本デビューを果たす。23年のザルツブルク復活祭音楽祭でカラヤンアワードを受賞するなど、欧米で話題の天才芸術家(キリル・ペトレンコのもとベルリン・フィルでアシスタントコンダクターを務めていた経歴ももつ)。今シーズンはゼンパー・オーパーでのオペラデビュー、ミュンヘン・フィル、ベルリン・ドイツ響、バンベルク響と客演、カメラータ・ザルツブルクとのヨーロッパツアー(藤田真央とも共演)も予定している。作曲家としても評価が高く、日本通でもある彼は国際モーツァルテウム財団の委嘱で、谷崎潤一郎『陰翳礼讃』をオペラ化、ザルツブルクで上演されている。若い指揮者と新たな形で《ルル》上演を目指す。

東京二期会
http://www.nikikai.net
https://nikikai.jp/news/20241017195.html
※2025/26シーズン各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。