名匠ピノックが紀尾井ホール室内管と満を持して挑むモーツァルトの「重要作」

 トレヴァー・ピノックが紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)の首席指揮者に就任してから3年目のシーズンを迎えている。このコンビの相性は抜群で、6月定期のシューマン交響曲第1番でも古典的な愉しさとエネルギーにあふれた名演を実現。今シーズン最後の25年3月には、演奏会形式でのモーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》全曲に挑み、彼らの3年間の成果を問う。

左:トレヴァー・ピノック ©Gerard Collett/マンディ・フレドリヒ ©Steffi Henn/湯川亜也子/マウロ・ペーター ©Christian Felber

 ピノックは会見で「いいチャレンジになると思います。今回はヨーロッパと日本の歌手の組み合わせで、最高のピアニストがフォルテピアノを弾きます。いいチームができて、オーケストラもすばらしく、紀尾井ホールも演奏会形式でのオペラ上演に効果的だと思います」と意気込みを示した。アンサンブル・オペラにふさわしい6人の歌手陣と通奏低音奏者がそろった満足感に加えて、オーケストラとホールへの全幅の信頼が伝わる。

 フィオルディリージ役のマンディ・フレドリヒは、欧州の歌劇場でバレンボイムやティーレマンとも共演するスターソプラノ。ドラベッラ役は日本とフランスで学び、幅広いレパートリーで22年の同ホールリサイタルが好評を博した湯川亜也子。フェッランド役のマウロ・ペーターはチューリッヒ歌劇場をはじめ欧州で活躍中の若きスター、グリエルモ役のコンスタンティン・クリメルもバイエルン国立歌劇場を中心に活躍するホープで、今春日本デビューを果たした。デスピーナ役は古典的な演目を中心に欧州で舞台を重ねる俊英、ラゥリーナ・ベンジューナイテ。そしてドン・アルフォンソ役は平野和。ウィーン・フォルクスオーパー専属歌手として約500公演に出演してきた、経験豊富な名バスバリトン。

左より:コンスタンティン・クリメル ©Daniela Reske/ラゥリーナ・ベンジューナイテ ©Ronan Collett/平野 和 ©武藤 章/ペドロ・ベリソ ©Marcel Lennartz

 ベンジューナイテとペーターは、紀尾井ホールでピノックと昨年共演。特にベンジューナイテとは世界各地でも共演しており、「女中でありながら全ての人物を操る」と重視するデスピーナ役に信頼厚い歌手を配した。さらにピノックは、今回フォルテピアノでの通奏低音と声楽コーチを務めるペドロ・ベリソの存在も強調。ザルツブルク音楽祭に出演、バルトリからも指名を受けるなど、モーツァルトのオペラを瑞々しく構築するのに不可欠な名人だ。

 そして何より、ピノックの指揮で《コジ》を体験できること自体が、とにかく嬉しい。現在でこそモーツァルトの傑作オペラとして認められる《コジ》だが、その内容や革新性がなかなか受け入れられなかった歴史ももつ。ピノックは「過去でも現在でも重要作です。どの時代においても現代的となるテーマをもっています」と語る。本作ではモーツァルトの筆が冴えわたり、前向きで一途な心情から経験を経てのほろ苦い哀感まで、少しずつ変化していく感情や関係性が、魅力あふれる音楽で隙なく展開していく。笑える場面も多く、馴染みのない方でも楽しめること間違いなし。

 25年4月から3年間の首席指揮者任期延長も発表され、26年12月には80歳を迎えるピノック。《コジ・ファン・トゥッテ》というこの上なく人間的な傑作で、本作を愛する世界的名匠がその真髄を示し、愉悦あふれるモーツァルトの真価を明らかにする。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年10月号より)

【出演者変更】
ドラベッラ役で出演を予定していた湯川亜也子は本人の都合により出演できなくなりました。
代わりまして、小泉詠子が出演いたします。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(10/24主催者発表)

トレヴァー・ピノック(指揮) 紀尾井ホール室内管弦楽団
第141回 定期演奏会

モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》(演奏会形式)
2025.3/14(金)18:00、3/16(日)14:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp