まさに日本オルガン作品の縮図
オルガンといえば、教会とともに発達してきた楽器だが、日本では独自の歴史を歩み、邦人作曲家たちがオルガンのための作品を書くようになったのは、パイプオルガンを設置したコンサートホールが日本各地にできてからであった。
ミューザ川崎シンフォニーホールのホールアドバイザーである松居直美の企画するコンサート『オルガンの未来へ』では、現代日本の作曲家たちのオルガン作品がまとめて演奏される。松居は「今の時代の、現在進行形の息吹から生まれた名作を私たちは未来に手渡してゆきたいと願っています。今回、日本を代表するいろいろな世代の作曲家の作品をご紹介できることは大きな喜びです。日本のオルガン作品の縮図とでも言うべきラインナップが実現しました」と述べる。
池辺晋一郎、自作について語る
このコンサートの関連企画として、松居がナビゲーターを務める、ポジティフオルガン講座「作曲家『自作』を語る」(全3回)が1月27日に開催され、その第1回のゲストとして『オルガンの未来へ』で作品が演奏される池辺晋一郎が登場、オルガンとのかかわり、今回演奏される「リチェルカータ」(1988)などについて語った。
池辺は自らのオルガン曲について2つの特徴をあげる。一つは、レガート奏法がピアノとは違って、常に指をつけてなければならないこと。池辺はそれを「競歩のよう」という。もう一つは「マイナス理論」。芥川也寸志も影響を受けたエローラの石窟のように岩山を切り崩すことで像を作るアジアの美学。オルガンを全部の指で鳴らしてから、鍵盤を一つずつ離していくことでその音を感じることができるなど、興味深い内容だった。
気鋭の奏者たちの競演
この『オルガンの未来へ』では、池辺の「リチェルカータ」のほか、西村朗の「オルガンのための前奏曲《焔の幻影》」(1996)、細川俊夫の「雲景〜オルガンのための〜」(2000)、権代敦彦の「シャングリ・ラ」(08)、そして薄井史織の「小宇宙」(14)が演奏される。なかでも薄井の「小宇宙」はミューザ川崎シンフォニーホールの委嘱作であり世界初演でもある。
薄井は1981年生まれ。17歳でスコットランドに渡り、2010年から11年までBBCスコティッシュ響のレジデント・コンポーザーを務めた。12年には武満徹作曲賞で第3位に入賞するなど、国際的に注目されている。「小宇宙」はコンサートホールに創出される「小さな宇宙」。聴衆にも、紙や声、風船などを使って音を出して参加してもらう予定だという。この作品でオルガンを弾くのは福本茉莉。1987年生まれの彼女は、若手オルガニストで最も注目されている逸材のひとり。2011年からドイツを拠点に活躍している。フレッシュな作曲家とオルガニストのコラボはまさに新しい時代を切り拓く世界初演となろう。
この日は福本のほかに、近藤岳とベルギー出身のジャン=フィリップ・メルカールトも出演する。オルガンの未来を担う気鋭の奏者たちの競演が楽しみである。
なお開演前には、松居が案内役となり、出演するオルガン奏者3人と、権代・薄井の作曲家2人によるプレトークも予定されている。
文:山田治生
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)
3/7(土) 13:15 プレトーク 14:00 開演 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
http://www.kawasaki-sym-hall.jp