ドミトリー・シトコヴェツキー(指揮・ヴァイオリン) 紀尾井シンフォニエッタ東京

弦楽の艶と綾に酔いしれる幸福

ドミトリー・シトコヴェツキー
ドミトリー・シトコヴェツキー
 これほど弦楽合奏にどっぷり浸れるコンサートは滅多にない。2月の紀尾井シンフォニエッタ東京の定期演奏会の演目は、J.S.バッハの「ゴルトベルク変奏曲」(ドミトリー・シトコヴェツキー編弦楽合奏版)とチャイコフスキーの弦楽セレナード。小品や協奏曲は入れずに長い弦楽合奏曲2曲のみという、ソリストや在京オーケストラのトップ級を揃えた同楽団の面目躍如たるプログラムだ。
 指揮は、シトコヴェツキー本人。旧ソ連出身の彼は、ベルリン・フィルやシカゴ響などの著名オケとの共演、室内楽、録音等々、第一線で活躍するヴァイオリンの名ソリスト。指揮者としても長く活動し、2003年からグリーンズボロ響の音楽監督を務めるほか、ロンドン・フィル、サンフランシスコ響など多数の楽団に客演している。
 グールドが弾く「ゴルトベルク変奏曲」に心酔する彼は、同曲を自身の楽器で演奏すべく弦楽三重奏用に編曲(この版は既に定番)、次いで弦楽合奏用に編曲し、自ら指揮して録音も行った。これは、バッハの多彩な変容に、弦楽器の美しく豊かな響きと躍動感を加えた清新なアレンジ。原曲と新曲の妙味を同時に味わえる魅力作であり、原曲のファンも未知の方も快適かつ深く堪能できること請け合いだ。またチャイコフスキーの弦楽セレナードは、むろん同ジャンルの最高傑作だが、同楽団の定期には16年ぶりの登場。今回は、CMなどでもおなじみの名旋律を、名匠の指揮と名手揃う弦楽器群の豊麗なサウンドで耳にする貴重な機会となる。
 ここはひとつ、弦楽合奏の芳醇な醍醐味を存分に満喫しよう。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

第98回 定期演奏会
2015.2/13(金)19:00、2015.2/14(土)14:00 紀尾井ホール
問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 
http://www.kioi-hall.or.jp