カツァリスは昨年の来日リサイタルでシューベルトの「即興曲」を抜粋で弾いたが、新譜ではop.90、op.142を全曲収録。使用楽器はベヒシュタイン D-282。op.90第2曲の澱みなく上品に突き進むドライヴ感は心地よく、第4曲では左手が担当する内声部に、意外な発見をもたらしてくれる。op.142の第1曲は深く柔らかな音色が麗しい。変奏曲形式の第3曲の主題は素朴だが、カツァリスの愛らしさに溢れた演奏に心を掴まれ、やはり内声の強調がおもしろい。めくるめく変奏は決して攻撃的な表現をせずに安定感のあるテンポの中で多彩な表情を聴かせる。
文:飯田有抄
(ぶらあぼ2024年3月号より)
【information】
CD『シューベルト 即興曲集 /シプリアン・カツァリス』
シューベルト:4つの即興曲 D.899(op.90)、同D.935(op.142)
シプリアン・カツァリス(ピアノ)
PIANO21/東京エムプラス
XP21 059-N ¥3300(税込)