森谷真理 ソプラノ・リサイタル Vol.2
Spirits of Language ~言葉に宿るもの~

歌姫が導く、テクストから広がる歌曲の世界

(c)FUKAYA Yoshinobu auraY2

 ソプラノ森谷真理は日本オペラ界のトップランナー。舞台上でも舞台裏でも朗らかに振舞いながら、彼女は日々、ベストを尽くしてきた。ただ、その一方で、この数年間の森谷は「現状維持だけでなく、よりいっそう歌を磨く」べく、自問自答を繰り返したよう。結果、たどり着いたのが、「いろんな言語の曲にトライしよう」という挑戦心である。新しい言葉から「新しい音色」を会得したいと考えたのだろう。少し前、ドヴォルザークの歌劇《ルサルカ》に主演した辺りから、その意識が強まったよう。「歌の世界で一番難しい」と噂されるチェコ語に必死に取り組み、言語指導者からも賞賛されたのだから。それが彼女の大いなる糧になったはずである。

 この10月、森谷が開くリサイタルの選曲を眺めて、筆者は思わず目を見張った。「パリやロンドンでのコンサートみたい」と思うほど、それは挑戦的なプログラム。でも、ピアニストが山田武彦と聞いて納得。いま最も先進的な二人の顔合わせであるからだ。シマノフスキのポーランド語歌曲集「スウォピェヴニェ」では“哀感と弾けた感”の交錯ぶりが面白く、ラヴェル「2つのヘブライの歌」では中近東風の旋律美と森谷のくぐもった声音の相性の良さが楽しめる。そして、生誕130年の女性作曲家リリ・ブーランジェの「空の広がり」では、軽やかな仏語とゆったりとしたメロディの対照の妙が味わえる。“未知の世界に触れたい”人々を惹き付ける、この秋一番の注目の演奏会である。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2023年10月号より)

2023.10/31(火)19:00 王子ホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212 
https://www.japanarts.co.jp