食道がんの治療のため活動を休止していた指揮者の小澤征爾(74歳)が8月1日、長野県山ノ内町の奥志賀高原ホテル「森の音楽堂」で復帰会見を行った。今年1月にがんを公表して以来、公の場に姿を見せたのは初めて。
会見前には約30分にわたって「サイトウ・キネン室内楽勉強会」で合宿中の、若手音楽家による弦楽アンサンブルのリハーサルを公開し、チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」、モーツァルト「ディヴェルティメント」の一部などを指揮して回復ぶりを見せた。座っての指揮になったが、力が入ると立ち上がり、大きな声で指示を出すなどいつもの小澤らしさは健在だった。
プレス約30社を集めた記者会見では、1月末に食道の全摘手術をしたことを明かし、「5週間ほど入院した。15キロやせたが、こうして皆さんの前に立てたのが夢のよう。今日は僕の『第二の人生』の最初の日」と笑顔で話した。また闘病を振り返り「スタッフや家族がスクラムを組んでぼく助けてくれた。それが嬉しくて…」と声をつまらせる場面もあった。
小澤は8月10日から長野県松本市で始まる「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」(SKF松本)に総監督として本格復帰し、9月5日・6日(Bプログラム)、8日・9日(Cプログラム)に計4回のコンサートを指揮する予定。会見中、SKF松本の話題になると、この日、会場を訪れていたSKF松本で《サロメ》を指揮するオメール・メイア・ヴェルバー(29歳)を脇に呼びよせ、「彼は素晴らしい才能を持った若者。彼の未来が松本から始まる」と期待を寄せた。
今後、年内の音楽活動は、SKF松本と、ニューヨークのカーネギー・ホールが主催する日本芸術祭「Japan NYC」に専念。来年は海外公演を極力控え、小澤征爾音楽塾、水戸室内管弦楽団、新日本フィルなど、当面は国内中心の活動を予定している。取材・文:青柳賢木