ロン=ティボー国際音楽コンクール ピアノ部門の聴きどころ

2022秋 高坂はる香の欧州ピアノコンクールめぐり旅日記 4

 20世紀前半のフランスを代表する、ピアニストのマルグリット・ロンとヴァイオリニストのジャック・ティボーの名を冠し、パリで1943年にスタートした、ロン=ティボー国際音楽コンクール(Concours Long-Thibaud)
(ちなみに2011年から声楽部門が加わり、レジーヌ・クレスパンの名が追加されて、ロン・ティボー・クレスパンコンクールとなっていましたが、今年はまた公式サイトもロン=ティボーコンクールという表記に戻っています)

 ピアノ部門は、前回2019年に三浦謙司さんと務川慧悟さんが1位、2位に揃って入賞するなど、日本人の活躍もたびたび話題となっています。
 今回も7名の日本からの参加者をはじめ、32名の優れたピアニストたちが参加。魅力的な演奏との出会いに、かなり期待ができそう! 最初のステージとなる予選は、11月7〜9日に行われます。会場は、エコール・ノルマル音楽院の中にあるサル・コルトー。

 予選に参加する32名の演奏日程(カッコ内は日本時間)はこちら。

11/7(月)
10:00(18:00)|京増修史 / KYOMASU Shushi(日本)
10:30(18:30)|CARRÉ Tom(フランス)
11:00(19:00)|KIM Seolhwa(韓国)
11:30(19:30)|LECOCQ Paul(フランス)
12:00(20:00)|SUN Youl(韓国)
12:30(20:30)|BILY Robert(チェコ)
15:00(23:00)|BONYUSHKINA Ekaterina(ロシア)
15:30(23:30)|GUO Yiming(中国)
16:00(11/8 0:00)|MAMADALIEV Iskandar(ウズベキスタン)
16:30(0:30)|RADEVSKI Djordje(セルビア)

11/8(火)
11:00(19:00)|尾城杏奈 / OJIRO Anna(日本)
11:30(19:30)|BURNON Valère(ベルギー)
12:00(20:00)|NOH Hee Seong(韓国)
12:30(20:30)|HSIEH Wei-Ting(台湾)
15:00(23:00)|重森光太郎 / SHIGEMORI Kotaro(日本)
15:30(23:30)|亀井聖矢 / KAMEI Masaya(日本)
16:00(11/9 0:00)|KIM Kang-Tae(韓国)
16:30(0:30)|LEE Hyuk(韓国)
17:00(1:00)|戸室玄 / TOMURO Gen(日本)
17:30(1:30)|DIMOV Petar(ブルガリア)
18:00(2:00)|LEE Jaeyoung(韓国)

11/9(水)
11:00(19:00)|WEI Zijian(中国)
11:30(19:30)|LEE Seunghyun(韓国)
12:00(20:00)|マルセル田所 / TADOKORO Marcel(フランス/日本)
12:30(20:30)|CHA Junho(韓国)
15:00(23:00)|DAVIDMAN Michael(アメリカ)
15:30(23:30)|藤澤亜里紗 / FUJISAWA Arisa(日本)
16:00(11/10 0:00)|WANG Quanlin(中国)
16:30(0:30)|NIKOVICH Jan(クロアチア)
17:00(1:00)|KIM Hayoung(韓国)
17:30(1:30)|LEE Taekgi(韓国)
18:00(2:00)|DO Yeonsoo(韓国)

 すでに日本で名前の知られたピアニストもいます。今年のヴァン・クライバーンコンクール セミファイナリスト組の亀井聖矢さんやマルセル田所さん、2020年ピティナ特級グランプリの尾城杏奈さん、昨年のショパンコンクール参加者の京増修史さんなどは、私も演奏を聴いたことのある方々。また昨年のショパンコンクールでファイナリストとなった韓国のイ・ヒョクさん、先日のジュネーヴコンクールで3位に入賞したばかりの中国のズージェン・ウェイさんのお名前もあります。

 さて、ロン=ティボーのピアノ部門といえば、課題曲の指定がちょっと変わっていることが知られています。フランスのコンクールならではのフランスものしばりがある…というあたりまでは想像ができますが、その他もろもろの指定が、今回は特にかなり細かい。

予選(30名)
・ショパン:ピアノソナタ第2番変ロ短調Op.35より第1楽章、第4楽章
・ドビュッシーまたはラヴェルの「トッカータ」から選択
・プーランク:「プレスト」変ロ長調
・クープラン「ティク・トク・ショック」またはラモー「鳥のさえずり」から選択
(以上はビデオ審査と同様のレパートリー)
・10分程度の自由な選択による楽曲

セミファイナル(10名)
45分以内のリサイタル
・自由選曲
・ただし、ショパン「24の前奏曲」より第16番を含む

ファイナル(6名)
下記のピアノ協奏曲から選択し、ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団と共演する
Chopin: Piano Concerto n°1 in E minor Op.11
Schumann: Piano Concerto in A minor Op.54
Prokofiev: Piano Concerto n°2 in G minor, Op.16
Brahms: Piano Concerto n°2 in B-flat minor Op.83
Mozart: Piano Concerto in D minor K466
Beethoven: Piano Concerto n°4 in G major Op.58
Rachmaninov: Piano Concerto n°3 in D minor Op. 30
Tchaïkovski: Piano Concerto n°1 in B-flat minor Op. 23
Ravel: Piano Concerto in G
Saint-Saëns: Piano Concerto n°5 in F major Op.103
Liszt: Piano Concerto n°2 in A major
Massenet: Piano Concerto
Fauré: Ballade for Piano and Orchestra Op.19

 これまでも指定はユニークでしたが、今回については、こう言ってはなんですが、もはやトリッキー…。予選はおそらく多くの人が似たようなプログラムを弾くことになるでしょう。プロ向け、それも国際的な大コンクールではなかなかないことです。
 また、ショパンのソナタ2番の第1、4楽章の指定は、マルグリット・ロンの遺言によるものだそうですが、そのわりに一時はこの課題が外される時期もあった模様。今年は復活しています。

 そしてセミファイナルは、このショパンの第16番変ロ短調プレスト・コン・フォーコの激しめの「プレリュード」をどこにどう配置するか…参加者みんな悩むところだと思います。ざっとプログラムを見たら、いくつかの他のプレリュードを選択して組み合わせることにした人もいるようです。
 課題の意図はわかりませんが(ただこの超絶技巧作品を弾かせることが目的ではないと信じたい)、唐突に、いかにも課題だから入っていますという感じでこの曲が出現するのではないプログラミングだと、「あら、ステキですね」とみんなから思われるはず。

 ファイナルの協奏曲も、どうしてこういう選択肢なのか微妙に理解しにくいところもなくはないですが、マスネのコンチェルトやフォーレの「ピアノとオーケストラのためのバラード」などが入っているのは、フランスらしくておもしろいですね。…ただ、残念ながら選んでいるコンテスタントは一人もいません。

 11名の審査員も豪華です。なかでもブルーノ・レオナルド・ゲルバーさん(81歳)、エリック・ハイドシェックさん(86歳)、フィリップ・アントルモンさん(88歳)あたりの重鎮組の存在感が際立っています。日本からは、ジュネーヴコンクールに引き続き、児玉桃さんが参加。

 予選が例年より少ない32名でスタートするとはいえ、他のコンクールに比べると短い、7日間という日数で予選からファイナルまでが完結します。もちろん演奏は配信されますので、アーカイヴも活用しつつ、すてきなピアニストとの出会いを楽しみにコンクールを追いかけてみてください!

♪ 高坂はる香 Haruka Kosaka ♪
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/